「作品に詩心(うたごころ)がある」そう言われてきた。
これは若くで音楽世界に属し、想いを言葉に変える訓練を重ねたことに起因しているのかもしれない。
収録で名古屋へ行った時、駅前の像に魅入った。“サモトラケのニケ“だ。あらゆる人間の可能性を示唆する如く佇んでいた。彫刻との出会いだ。十数年後、彫塑を学ぶのは必然だった。
普段、見た夢や浮かんだものを創っているがイメージにどれだけ忠実な素材であるかは重要だ。
「頭部は神の棲む崇高かつ神聖な領域、身体は砦となる神殿」と聞き、影響を受ける。私の作品の多くは素材が単一でない。頭部、つまり神性を宿す表情は手・指からきちんと創りだせる粘土を用い、神殿の身体は石膏(他)を用いる。石膏は直付け。その魅力はエッジと滑らかな部分の対比、さらに別素材を加えて作業を進めることだ。
2012年春、母が亡くなり、遺品から鏡をもらった。母のその時々の心を映した鏡を小さく割り、作品に埋める。夕方、アトリエの電気を消すと暗がりの中、鏡の灯火が光る。今、ライフワークとする「千年の樹」には夥しい数の鏡が埋められている。母の導きだ。
自然は人が創るものより遥かに美しい。
私も自然の一部として生まれ、その摂理の中で生かされている。毎夜、自らに与えられる恩恵を地球上の動植物へとそのままお返しできるよう夜空に祈っている。空、海、山、森、宇宙が育むすべてに奉納する想いで、自然の小さな便りである流木・貝・石ころ、他、宝ものと授かり、作品の身に纏わせている。
木田 詩子(きだ・うたこ)
1967年埼玉県生まれ。過去に日彫展や日展に出品、受賞。2020年紺綬褒章受章。
これまで石川・西田幾多郎記念哲学館、北海道・神田日勝記念美術館、新潟・ニューグリンピア津南、静岡・沼津信用金庫ストリートギャラリー、銀座・ギャラリー林、世田谷・Galleria 時の雫、表参道・athalie、大宮・氷川参道ギャラリー、京都・KAHO GALLERYで個展開催。ほか全国でグループ展多数。
2023年能登国史跡石動山大宮坊にて「木田詩子展」開催予定。
【関連リンク】木田詩子オフィシャルサイト