富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] : NYの具体回顧展(承前)

2013年04月13日 13:43 カテゴリ:コラム

 

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向井修二「記号の遊び場」はトイレを使った新作インスタレーション 写真=筆者撮影

向井修二「記号の遊び場」はトイレを使った新作インスタレーション 写真=4点とも筆者撮影

グッゲンハイム美術館で開催中の具体回顧展は、企画の研究的意義のみならず、作品展示の面でも充実度は高い(2013年5月8日まで)。

 

一昨年、同館で自らの回顧展を設置した李禹煥は、とにかく作品が新鮮に見える、もちろん作品に質があるわけだが、それを引き出したキュレーターの腕も素晴らしい、ダイナミックに建築と作品が呼応している―と評価する(特別内覧会での談話、文責筆者)。

 

付言するなら、同館の空間を熟知した展示スタッフのクリエーティブな貢献なくしては、具体の自由な遊びの精神が直裁に伝わってくる、愉快で爽快な展示は実現しなかっただろう。

 

本展は、同館の螺旋の回廊を下から歩きながら「遊び:制約なき行為」「コンセプト:一枚の布切でも芸術作品か?」「ネットワーク:作品を世に問うために」「具体性:物質自体の絶叫」「パフォーマンス絵画:時空をはらんだ絵」「環境:グタイグループによる宇宙時代の美術」といった多面的な具体の特質が、ほぼ年代順に理解されるように構成されている。

 

第二世代の作品―今井祝雄(左と上)、松田豊(下中央)、高崎元尚(右)

第二世代の作品―今井祝雄(左と上)、松田豊(下中央)、高崎元尚(右)

しかし、少なくとも初回は解説を読むのももどかしいくらいに、ずんずんと歩が進んでしまう。作品が面白くて次は何があるのか。そんなワクワクする気持ちが先に立つのは、この展覧会が古くて新しいからだ。

 

具体を単に過去の出来事として見るだけではなく、現在に意味のある歴史として考えるキュレーション哲学がそこにはある。

 

もちろん、作品が新鮮に見える理由の一つは、美術館の基本作業である修復に時間をかけて、文字通り作品を再生させていることも見逃せない。だが、それ以上に、研究と展示を相乗し増幅させて、積極的に過去と現在を接続するアプローチは展覧会全体に見出せる。

 

圧巻は、元永定正の遺作ともいうべき「作品(水)」。55年の作品をグッゲンハイムの独特の空間にあわせて新に構想し、色水を入れた3種類の太さのプラスチック管をロタンダに16本掛けわたした。具体以後も水のインスタレーションを工夫し続けた作家が原点に戻って作品歴を閉じた、とも言える。

 

元永定正「作品(水)」を掛けわたしたロタンダのインスタレーション

元永定正「作品(水)」を掛けわたしたロタンダのインスタレーション

 

こうした所謂「再制作」には様々な意見がある。が、作家の意図を尊重し、また作家や遺族と緊密に協力しながら、芸術の倫理や著作権法などにも配慮して慎重に再制作を実現したグッゲンハイムの方法は一つの規範を提示する。

 

過去と現在の接続が何よりも成功しているのは最上階、テクノロジーへ高い関心を示した第二世代のセクション。ヨシダミノルの動く彫刻「バイセクシャル・フラワー」には、空圧式ドームを仕立てて暗いスペースを確保。今井祝雄の「タンクロー」は大阪万博の時にお蔵入りした天井から吊るというコンセプトを実現。万博みどり館の展示のために名坂千吉郎が考案したアルミパイプのインスタレーションを再制作して聴涛襄治や菅野聖子など若い世代の平面、そしてリーダー吉原治良の最晩年の「円」を組み合わせる。天井高があり環境性の高い空間を逆手にとった絶妙な展示となっている。

 

名坂千吉郎のアルミパイプのインスタレーションと(左から)聴涛襄治、菅野聖子、吉原治良の作品

 

 

「新美術新聞」2013年4月1日号(第1308号)3面〈現在通信 From NEW YORK〉より

 

 

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