発足1周年 基調対談「なぜ今アールブリュットなのか」 青柳氏と保坂氏
澤田真一ら日本と台湾作家「ランドスケープ―創造のカタチを一望する―」展も
2月8日、滋賀県大津市の大津プリンスホテルコンベンションホールで、青柳正規・文化庁長官と保坂健二朗・東京国立近代美術館主任研究員の基調対談をメインとする「アール・ブリュット ネットワーク フォーラム2014」が開かれた。同ネットワークの発足から1周年。近年、益々注目されるアール・ブリュット。日本と台湾のアール・ブリュット作家を広く紹介する共催事業「アール・ブリュット ランドスケープ―創造のカタチを一望する―」展も2月7~9日、「アメニティー・フォーラム18」と共に同時開催された。
滋賀は障害者アート支援発祥の地でもある。ネットワークは、1年前の2月、アール・ブリュット作品の制作を支援し、その魅力を発信していく一連のプロセスに携わる美術・福祉・医療・研究機関・行政等各分野の関係者間の交流促進、課題解決につなげ、同時にアール・ブリュットに関する情報発信を行うことでそれを支える環境の底上げ、その活動を広げることを目的に発足したものだ。その設立発起人には青柳(独)国立美術館理事長・国立西洋美術館長(当時):会長に就任、また日比野克彦・アーティスト/東京藝術大学教授、保坂氏ら8氏が名を連ね、大きな反響を生んだ。発足後、1年足らずで全国47都道府県から600を超える団体・個人が入会したという。
その後、青柳氏は昨年7月文化庁長官に就任。同会長の立場は退かなければならなかったが、文化行政を司る今もアール・ブリュットの側面支援は続行中だ。昨年は、国も文部科学省と厚生労働省が共同して「障害者の芸術活動への支援を推進するための懇談会」をもち、10月には文科省情報ひろばでアール・ブリュット作品展「心がカタチをもつとき」が1カ月余開催された。一方で、滋賀県在住の澤田真一氏(82年生まれ)が昨年6月の第55回ベネチア・ビエンナーレの招待作家の重要な一人に選ばれるなど、日本のアール・ブリュットは国際的にも俄然注目されるところとなった。今回の「ランドスケープ展」には澤田氏ほか、その個性的魅力が光る魲万理絵氏(79年生まれ、長野県在住)、西田裕一氏(74年生まれ、東京都在住)ら若手を中心に22人、台湾から4作家が出展した。会場面積も昨年の2倍ほどに拡大、囚われのない、多彩な素材の作品群、工夫の凝らされたギャラリー展示空間の演出が印象的だった。
「フォーラム2014」では青柳正規・文化庁長官と保坂健二郎・東京国立近代美術館主任研究員の基調対談が中心だ。保坂氏は前日の関連イベントでも講演「アール・ブリュット 元年」と題し、アールブリュットの歴史70年(アウトサイダー・アート40年)、世界の動向、とりわけ著名な美術館での企画展などでの取り上げられ方やベネチア・ビエンナーレでの澤田真一の特設展示などを分析、今後の方向性を解説した。
それを踏まえて行われた8日の基調対談。保坂氏は「いま世界ではアールブリュットの展観、シンポジウムが盛んに開かれ、その概念も改めて問われている。ベネチアでの澤田氏の展示空間は画期的で重要だ。一方でマーケットではその作品が高騰し、混乱さえある」現状を説明。青柳氏は「アールブリュットは実は昔からあった。それがどうして最近注目されるのか。物質的な豊かさ・充足感の中で小さな優しい思想、生活レベルで実感できる考え方が世界的に見直され出した訳です。もう一つ、造形表現の範囲の広さです。これまでの固定的なファインアートの輪郭が工芸、デザインも含めボーダーレス、一体になりつつある。アールブリュットには柵から解き放たれた新鮮さがある」と答えた。
なお、滋賀県では滋賀県立近代美術館を仏教美術、近現代美術そしてアール・ブリュットの3つを中核に19年度中にも新生美術館として再生させたいとの方針を打ち出している。
アール・ブリュットネットワークの主催は滋賀県、社会福祉法人滋賀県社会福祉事業団。
問合窓口は同県総合政策部「美の滋賀」発信推進室 ☎077-528-3333
「新美術新聞」2014年2月21日号(第1336号)3面より