三井記念美術館の特別展「超絶技巧!明治工芸の粋」が4月19日(土)より開催される。今展は、20数年来にわたって明治の工芸を収集し、その質・量ともに世界一の呼び声が高い「村田コレクション」より、並河靖之らの七宝、正阿弥勝義らの金工、柴田是真・白山松哉らの漆工、旭玉山・安藤緑山らの牙彫をはじめ、驚くべき技巧が凝らされた薩摩や印籠、近年海外から買い戻された刺繍絵画など、選りすぐりの約160点を一堂に展観するもの。
明治の工芸の多くは海外輸出用として作られたもので、万国博覧会などを通じて広く輸出され、長らく海外のコレクターが所蔵していた。そのため、これまで国内においては正当な評価を受けてこなかったが、近年になって再評価の機運が高まり、なかでも“超絶技巧”と言える高度な技巧によって作り出された作品は、美術雑誌やTVなど一般にも広く注目を集めるようになっている。
4月18日(金)に開催された内覧会では、村田コレクション生みの親で京都・清水三年坂美術館の館長を務める村田理如(むらた・まさゆき)氏、今展の監修者である明治学院大学教授の山下裕二氏が解説を行った。
山下氏は、明治工芸などを扱う銀座・宝満堂で村田氏と出会い、交流を重ねてきた。今展は、10,000に及ぶコレクションを有する村田コレクションを体系的に紹介する初の展覧会となる。
展示空間に入ってまず目にするのが、並河靖之(1845~1927)の七宝「花文飾り壺」。並ぶ者のいないその技巧、色彩のセンスは、万国博覧会などを通じて国内外より評価された。欧米のコレクターで知らぬものはいない傑物。山下氏は「三井記念美術館の空間を見たときに、第一室の一番初めにこの作品を展示する絵が浮かび、ここを全国巡回の第一会場にしたいと思った」と話す。
正阿弥勝義(1832~1908)の金工「蓮葉に蛙皿」を解説する山下氏と村田氏。動物の動きの一瞬を切り取る正阿見勝義のセンスは瞠目すべきもの。その技の粋を楽しむためには、単眼鏡を持参するのが良いだろう。
近年、村田氏が収集する刺繍絵画。一見絵画のようだが、表面の質感は刺繍ならではの魅力を放つ。一方で繊細な絹糸を用いているため紫外線や虫食いに弱く、現存する作品も少ない。同様の理由で会期中に展示替えが行われる。写真奥から「瀑布図」、「獅子図」(ともに無銘)。
精巧山「雀蝶尽し茶碗」。外側には様々な表情の雀が写実的に描かれ、見込には金彩で縁取られた多色の蝶がぎっしりと描き込まれている、まさに超絶技巧の言葉に相応しいやきもの。
今展の目玉と言える安藤緑山(生没年不詳)の牙彫「竹の子、梅」は、本物かと見紛う再現性。象牙から彫り出し、彩色を施している作品だが、安藤は弟子をとらず記録も残さなかったため、その技術は再現不可能と言われている。
安藤緑山によるパイナップルやバナナ、柿、剥きかけの蜜柑など。三井記念美術館では、その技法や素材の解明を目的にX線透過撮影、蛍光X線分析などを実施。その成果が展覧会図録にて報告されている。
三井家にゆかりのある国宝・茶室「如庵」の室内を再現したスペース。通常は館蔵の茶道具などを展示するが、今展では貴重な墨蹟とともに三井記念美術館が所蔵する安藤緑山「仏手柑」が展示されている。
会場の入口には高瀬好山「自在伊勢海老置物」(三井記念美術館蔵)が展示。江戸時代、明珍派の甲冑師たちにより生み出された自在置物も、国内よりも欧米の博物館や美術館、個人コレクターがその多くを所蔵している。今展では、明珍派の蛇や手長海老、高瀬好山による鯉や昆虫など村田コレクションが有する自在置物の名品も多数紹介する。
七宝から金工、漆工、牙彫、印籠、刺繍絵画に至るまで、村田コレクション秘蔵の明治工芸を堪能出来るまたとない機会と言える今展。村田氏は「信じられないような高度な技で作られたものは、それだけで人を魅了する。その優れた技巧とともに、作者一人一人が異なった美意識、感性を楽しんで欲しい。これらは全て明治の日本人が作ったもの。やはり日本人にこそ観て欲しい」、山下氏は「並河靖之や正阿弥勝義、安藤緑山の作品は、その技巧もさることながら、作家としてのセンスや日常への卓抜した観察眼により生み出されたもの。一般の方はもちろん、これから研究しようという若い人や金工や漆に取り組む作家にとっても良い展覧会となるでしょう」と語る。
公式ウェブサイトに作品解説や見所が分かりやすく紹介されているので、来場の前にはぜひご覧頂きたい。
【会期】 4月19日(土)~7月13日(日)
【会場】 三井記念美術館 (東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7F)
☎03-5777-8600(ハローダイヤル)
【休館】 月曜、5月7日(水)、ただし4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館
【開館時間】 10:00~17:00 (入館は16:30まで) ※毎週金曜日は19:00まで開館
【料金】 一般1,300円 大学・高校生800円 中学生以下無料
【巡回】
2014年10月4日(土)~12月23日(火・祝):佐野美術館
2015年2月末~4月中旬:山口県立美術館
【関連リンク】 三井記念美術館