【寄稿】文化庁の「優れた現代美術の海外発信促進事業」について:南條史生

2014年09月10日 14:15 カテゴリ:コラム

 

喫緊の課題は継続的、戦略的に発信していく作業

 

文化庁は本年4月から3回にわたって、「現代美術の海外発信に関する検討会」と称する諮問会議を開催した。参加者は私も含め現代美術に詳しい美術館関係者、ギャラリスト、コレクター、学識経験者などからなっている。

 

この議論が行われた背景は、『文化芸術の振興に関する基本的な方針(第4次)』の策定に係る文化審議会への諮問文にも言及されている海外への発信力の強化だろう。ここで、日本の芸術・文化の海外発信の必要性が施策例としてあげられているが、これを深め、具体的な方針を出すための会議が今回の会議ということになる。

 

さてこの検討会の特徴は、なんといっても対象が現代美術に絞られている事、そしてその海外に向けての発信強化に焦点が絞られている点にあるのではないだろうか。文化財保護や多様な芸術の振興に対応しなければならない文化庁が、現代美術に特化した議論をすることになった背景には、現代美術が現代文化の中で持つ象徴的な意味合い、そしてアジア諸国における現代美術の急速な成長と市場の拡大といった現実があると考えられる。

 

3回開催されたこの検討会では、まず現状認識として、日本の現代美術がおかれている国際的な状況、また海外から見たときの日本の現代美術の評価、そして様々な障害や問題点の列記を行い、さらに日本の現代美術が国際的、歴史的に果たす役割と海外発信する意義へと論が進んだ。

 

特に海外発信という目的達成のためにはどのような戦略が必要か、多様なアイデアが並ぶ事になった。その中の幾つかをあげると、現代美術作品の公的コレクション形成による海外からのアクセシビリティーの向上、キャパシティーにゆとりのある作品の収蔵庫の確保、調査・研究・アーカイブなどを専門的に行い海外からの要請に応えられる体制の構築、言語の壁を越えるための翻訳ファンド設立、海外巡回展の支援システム構築、新しい技術を使った広報と情報発信の改善、国際的な人的ネットワークの構築などがあがっている。

 

また今回の議論は、経済的なサスティナビリティーについても様々な検討をしている点で、一歩進んでいる。文化庁が市場の問題にまで踏み込み始めたのは評価すべき事ではないか。そうしないと、経産省も関わろうとしない美術市場は、政治と行政の仕組みのなかで隙間に落ちる。

 

そして、最終的には、こうした政策を実行する、短期、中期、長期の目標を提案、特にその中でも長期目標に戦略的・専門的に機能する例えば現代美術振興支援機構のような組織の創設をうたっている。これは日本版のNEAのような組織と考えても良い。少なくとも継続的、戦略的、国際的に現代美術を発信していく作業は喫緊の課題である。是非、長期といわずすぐにでも実現してほしい。

 

また短期には、オリンピックの開催を2020年に見据えながら、海外の多くの専門家と情報の交換、研究調査の支援の意味をかねて、現代美術に関する大型のフォーラムの開催を提案している。これまで、様々な現代美術のシンポジウムは開催されてきたが、今回の提案は世界中の専門家が集まるアジアの中で最大、最重要な日本(そしてアジア)の現代美術研究の包括的プラットフォームにすることを目標にしてはどうかと思う。そうすれば、日本はアジアの現代美術研究の入り口になるだろう。報告書のまとめには、「現代美術の歴史的文脈の形成を図る」という言葉がある。これを国際的な舞台でいかになしていくかが本質的な課題であろう。

 

この議論の最終報告書は今後文化庁のサイトで閲覧等が可能になるので、是非見ていただきたいと思う。

 

(森美術館館長、現代美術の海外発信に関する検討会委員)

 

※編集部注) The National Endowment for the Arts…全米芸術基金。米国連邦政府の独立機関として1965年に設立された。

 


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