【レポート】坂茂による国内初の美術館「大分県立美術館」来春開館

2014年10月25日 09:38 カテゴリ:最新のニュース

 

開館記念展はモダン百花繚乱「大分世界美術館」

 

大分県立美術館 写真©Hiroyuki Hirai

 

国内の県立美術館としては2006年開館の青森県立美術館以来、9年ぶりの新設となる大分県立美術館(OPAM)が2015年4月24日(金)に開館する。「五感で楽しむことができる美術館」、「自分の家のリビングと思える美術館」、「県民とともに成長する美術館」をコンセプトに据える同館は、紙管の建築で世界的に知られる建築家・坂茂氏が国内で初めて手掛ける公立美術館として大きな話題を呼んでいる。また館長には西武美術館・セゾン現代美術館で学芸員として数々の展覧会を手掛けた武蔵野美術大学教授・新見隆氏が就任。10月23日に両者が揃って開館記者会見を行った。

 

■「開かれた美術館」―建築について

 

大分県立美術館 写真©Hiroyuki Hirai

 

敷地面積13595㎡、延べ面積16769㎡を誇る同館。坂氏は会見で「いかにこの美術館が美術館としてだけではなく、市民・県民に自由に使ってもらえるかを表現したかった」とし、「これまでの美術館建設では税金を投入して箱を造った結果、市民からの批判が多く寄せられてきたという過去もある。美術館は美術愛好家だけの施設であってはいけない。普段美術に興味のない人たちにいかにして興味を持ってもらうか、あるいは展覧会以外に市民・県民にどのように使ってもらうかということを考えた」と大分県立美術館に懸ける想いを語った。

 

建物南側には「水平折戸」が設置、オープンにすることで前を走る昭和通との境界線を無くし、文字通り「街に開かれた」状態にすることができる。また県は同館のデザインをより活かすために道路の中央分離帯を撤去、11月の誕生祭(後述)の際には、建物と屋外が一体となるようなイベントを計画しているという。

 

大分県立美術館1階アトリウム 写真©Hiroyuki Hirai

 

館内の展示室に関して1階展示室には可動壁を設置、閉じた展示から周囲の広いアトリウムを一体的に使った展示まで多様な展示が可能であり、現代アートから国内外の貴重な美術品まで、様々なジャンルの展示ニーズに対応している。また3階外壁には「大分県らしいもの、木を使ってほしい」との要望から、竹細工のように木を配したファサードをデザイン。これについて坂氏は「地元の杉を多く使っている。ただの飾りではなく、構造も兼ねており、3階のギャラリー全体を支えている」と説明。同ギャラリーではコレクション展示のほか、企画展も開催される。

 

大分県立美術館3階ホワイエ 写真©Hiroyuki Hirai

 

坂氏が最後に語ったのは今後の美術館の在り方。「色々な人に自由に使ってもらえる美術館がこれからの美術館の在り方。今までの美術館のように、ブラックボックスで中に入らなければ何が行われているのか分からないようなものではなく、開いた場所として県のあるいは市の財産として人々に愛されるような場所になっていく。今までの美術館とは全く違う、世界に類を見ないフレキシブルなことができる建物になっている」と締めくくった。

 

なお、同館はコミュニケーションデザイナーに東京国立近代美術館のシンボルマーク(2002年)や同館60周年シンボルマーク(2012年)を手掛けたCDL(平野敬子・工藤青石)が就任。「OPAM(オーパム)」という愛称やシンボルマーク、館内のピクトグラムなどをデザインしている。また「館内に色を取り入れたい」という坂氏のリクエストに応え、インフォメーションやカフェ、ショップなどに固有の色を持つテキスタイルを施している。

 

 

■世界で唯一無二の美術館を目指す

建築について大きな注目が集まっている大分県立美術館だが、新見氏は坂氏の説明を受け、開館後の展開について次のように紹介。

 

「ガラス張りの館長室で『開かれた美術館』としてフルに活用していきたい。館長就任に際し、知事から条件として言われたことが3つあった。第1は大分県立芸術会館(14年12月より休館、その後閉館予定)から引き継がれた5000点の所蔵作品をフル活用すること、第2は大分県が内包している文化を世界に発信すること、第3は美術館を通じた全県の活性化だった。これに加え私は『日本一面白い美術館に必ずします、おそらく世界一になります』と申し上げた。大分でしかない、世界で唯一無二のものがここにはある。大分県立美術館は世界性のある美術館になると確信している。」

 

なお氏は今後の展覧会について、「(これまでの地方美術館のように)巡回展の受け皿になるようなことは一切しない。大分から発信し、東京に攻めていく」との姿勢を表明。また将来的なコレクションの方針についても「当分購入予定はない。購入するとしても、欲しい作品はまず借りてきて、見せる。そして県民の方々に判断してもらうつもり。それよりもまず既存のコレクションの素晴らしさを知ってもらうことが先決だと思っている」とし、「コレクションのフル活用」を強調した。

 

 

■開館記念展は多ジャンルの作品が出会う場

大分県立美術館の開館記念展となるのはモダン百花繚乱「大分世界美術館」。大分の文化的土壌に基づき、大分を象徴する作品と、世界的に知られた名作、あるいは日本を代表する美術館の様々な名品がかつてない出会いをなし、相互に響きあう“大分世界美術館”を提示する。同展では国内外の美術館や個人コレクション等から厳選された200余点に館所蔵品を加え、桃山期から現代にいたる絵画、彫刻、工芸、写真などの作品が地域やジャンルを越えて構成。展示構成は「モダンの祝賀」、「死を越える生・咲き誇る生命」、「日常の美 世界を映す「もの」・「かたち」」、「画人たちの小宇宙」、「視ることの幸福」の5章構成。

 

(左)アンリ・ルソー《散歩(ビュット=ショーモン)》 1908年頃 油彩/カンヴァス 世田谷美術館
(右)田能村竹田《山陰夜雪図》 1834年頃 紙本墨画淡彩 大分県立美術館

 

同展では海外から国立ソフィア王妃芸術センター(スペイン)やテート・ギャラリー(ロンドン)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(ロンドン)、オランジュリー美術館(フランス)など6施設、国内からは東京国立博物館、京都国立博物館、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館、愛知県美術館、セゾン現代美術館、DIC川村記念美術館など44施設から作品を借用展示、約300点(同館所蔵品が4割)を展示する。また開幕時には県内の全小学生6万人を招待する予定だという。

 

1階アトリウムでは「ユーラシアの庭」と題し、オランダのデザイナー、マルセル・ワンダースとテキスタイルデザイナー、須藤玲子による作品を長期展示。1600年にオランダ船リーフデ号が大分に漂着し、その後日蘭交流の歴史が始まったというエピソードを現代に呼び覚ます。3階に設けられた中庭では「天庭(あまにわ)―工芸を越える現代三人衆」とし、徳丸鏡子、礒﨑真理子、高橋禎彦によるインスタレーションが展開される。

 

マルセル・ワンダース「ユーラシアの庭」のためのデザイン構想図 2014年

 

なお来年度の展覧会予定は以下の通り

■開館記念展vol.1 モダン百花繚乱「大分世界美術館」(2015年4月24日~7月20日)

■『描く!』マンガ展(8月1日~9月23日)

■第51回大分県美術展(9月29日~10月18日)

■開館記念展vol.2 「神々の黄昏」(10月31日~2016年1月24日)

■シアター・イン・ミュージアム(2016年春)

 

同館では竣工を記念して11月23日より「OPAM誕生祭」を開催。記念式典や内覧会など多数のイベントが予定、1階展示室では「序曲、出会いと五感の交響楽=大分」と題し、中村錦平(陶芸家)、内田亜里(写真家)、髙山辰雄賞ジュニア美術展2014選抜展、安野太郎(作曲家)らが参加する。

【会期】11月23日(日)~30日(日)

【開館】10:00~19:00(23日のみ14:15~19:00)

【主なイベント】

11月23日 15:10~16:40=坂茂講演会

11月23日 17:00~18:30=ギャラリートーク(中村錦平×内田亜里×安野太郎×新見隆)

11月24日 10:00~11:30=大分県立芸術文化短期大学アクセシブルデザイン提案発表会

11月29日 13:30~15:30=トークイベント(新見隆×ゲスト)

11月30日 午後=トークイベント(新見隆×ゲスト)

 

【関連リンク】大分県立美術館

 


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