今日に至る美術史に一水脈を形成
針生一郎が亡くなって5年になる。いま、宮城県美術館では、仙台市生まれのこの美術評論家の足跡をたどる展覧会を開催している。
針生は、戦時中に保田與重郎の著書を読んで日本浪曼派に傾倒し、東北大学で国文学を専攻した。しかし、敗戦によって思想基盤が崩壊。戦後、日本浪曼派を批判的に検証するために、その底流にあるドイツ・ロマン主義を研究テーマとして東京大学大学院に進み、美学・ドイツ文芸学を学んだ。ドイツ語文献を渉猟する中でG・ルカーチのマルクス主義芸術論に出会い、しだいに同時代のリアリズム表現に惹かれていった。
野間宏らの戦後(アプレゲール)文学にリアリティを感じていたが、福沢一郎や鶴岡政男、麻生三郎といった画家たちの描いた戦後絵画に接して心を動かされ、美術にも目を向けるようになったのだという。
岡本太郎との出会いも大きい。上京後の下宿先は東中野で、近隣のレストラン「モナミ」において、花田清輝と岡本が主宰した前衛芸術研究会「夜の会」の公開研究会が開かれ、針生も常連だった。ここで前衛派の美術家たちと親交を結び、1953年から美術評論を書きはじめる。
針生が寄稿した雑誌『美術批評』からは、新世代の美術評論家がデビューした。なかでも中原佑介、東野芳明、そして針生は、「御三家」と呼ばれ、以後の美術の展開に大きな影響を及ぼす存在となった。
戦後、美術が自律した芸術表現として純粋性の追求に向かう大きな潮流の中で、針生は一貫して「社会と人間」という視点をもって、作家たちの表現行為と、そこに生み出された作品を論評し続けてきた。また、反戦・平和や人権擁護を信念とする針生の評論活動は、終戦から今日に至る日本の美術史に、ひとつの水脈を形成してきたといえよう。
本展では、1950~70年代に針生が関わった「ニッポン展」「新具象グループ展」「針生アンパン」「戦争展」「これが日本画だ!展」などの芸術運動や展覧会、また著書『わが愛憎の画家たち』などで論評した作家たちとの出会いを、全14章に分け、300点をこえる作品と資料によって紹介している。終戦から70年。ひとりの評論家の視線を通して、戦後美術史をたどる展覧会でもある。
(宮城県美術館副館長)
【会期】2015年1月31日(土)~3月22日(日)
【会場】宮城県美術館(仙台市青葉区川内元支倉34-1) TEL 022-221-2111
【休館】月曜
【開館】9:30~17:00(入館は閉館30分前まで)
【料金】一般1,000円 学生800円 小・中学生・高校生400円
【関連リンク】宮城県美術館
■美術館講座「戦後の美術と批評をめぐって」(全4回)
全て開場はアートホール(聴講無料) ※要事前予約 申込先:宮城県美術館教育普及部(022-221-2114)
①戦後からの出発-日本の前衛芸術家たち
【日時】3月1日(日) 13:30~
【講師】池田龍雄(画家)
②批評の英雄時代-戦後美術と戦後批評の成立
【日時】3月8日(日) 13:30~
【講師】光田由里氏(美術評論家)
③美術批評の現在進行形
【日時】3月15日(日) 13:30~
【講師】椹木野衣(美術評論家・多摩美術大学教授)
④批評の闘争/事物の思考-針生一郎を読む
【日時】3月22日(日) 13:30~
【講師】沢山遼(美術評論家)