圧倒的スケールで「村上隆の現在形」見せる
東京・六本木の森美術館で10月30日、「村上隆の五百羅漢図展」(10月31日~2016年3月6日)の内覧会と記者会見が開催され、村上隆氏をはじめ、南條史生森美術館館長、辻惟雄氏、三木あき子氏が顔を揃え、多くのメディア関係者が詰めかけた。(取材・撮影/橋爪勇介)
■ピカソのゲルニカに匹敵
国内では14年ぶりの美術館個展となった今回、2012年にカタール・ドーハの「Murakami – Ego」展で初めて公開された全長100mに及ぶ「五百羅漢図」が日本で始めて展覧されるほか、絵画・彫刻など約50点を展示。そのほぼすべてが新作、すべてが日本初公開というこれまでにない規模となった。自身の限界に挑戦し、西洋文脈からの離脱を図るような作品群や抽象画、10年近い歳月をかけて取り組んできた大型彫刻作品など、圧倒的なスケールで“村上隆の現在形”を見せている。
記者会見ではまず初めに森美術館館長・南條史生氏が挨拶。数多くのメディアを前に「これほど人が集まった会見は初めてで大変光栄」とし、「森美術館はいつか必ず村上隆の個展をやると思っていた。きっかけは《五百羅漢図》の里帰り。世界初公開。同作は3.11の後に生まれたもので、諸々の要素が包含された作品。村上さんは本作によってアーティストの本分を全うすべく、絵画という正当な方法をもって東日本大震災に対する一つの回答を出したと考えている」と評し、「今回の《五百羅漢図》は将来、ピカソのゲルニカに匹敵するのではないかと思っている」と語った。
今展キュレーターの三木あき子氏は「今展は村上隆の今に注目するもの。村上芸術の新たな局面・ステージ。後世に今を伝える、この時代になくてはならない作品をといった思いが強い」と同展の特徴を説明する。また過去に村上隆と『芸術新潮』で連載を行った経緯がある辻惟雄氏は「この《五百羅漢図》は超ハチャメチャでカイカイキキ」としながらも「しかししっかりと構成されている。力強くユーモラス」と評価。「村上さんの代表作はほとんど外国に行ってしまっているが、そのうちの最力作が見られることを喜びたい」と述べた。
■宗教と芸術をコンバインできた
「日本では現代美術は非常にニッチな芸術領域」とした村上氏。「今回五百羅漢のタイトルをつけたのも、この作品が無ければ展覧会が成立しないとお願いしたのも、日本人の方には現代美術に対する親和性が全くないから」とし、「70%くらい悲しい気持ちと、30%くらい五百羅漢あってよかったという気持ちでオープニングを迎えている。しかし私も“猿”なので一回舞台に上がれば躍らせていただく」と“村上節”を炸裂させた。
また《五百羅漢図》を選んだ理由とその目的について問われると、「辻先生が五百羅漢に傾倒されていたので描こうと思った。(3.11の)震災のときに見たドキュメンタリーで、両親が津波で亡くなったお子さんにインタビュアーが「空から見ているから大丈夫だよ」と言っている状況に、宗教の発生の瞬間を見た気がした。誰がどう見ても嘘八百な話なのに、周りはそれを信じることで子どもが救われると思っている。この瞬間に宗教の原初的な発生原理があるのかなと。宗教と芸術の関係には興味があった。そういうものが全部コンバインできるものとしてタイミングがよかった」とその経緯について語った。
なお今展ではこの《五百羅漢図》の研究資料やスケッチなど膨大な資料の一部も展示されており、その制作のプロセスを垣間見ることが出来るほか、江戸時代の絵師、長沢芦雪と狩野一信の五百羅漢図も展示。江戸時代の絵師と村上隆の対話を感じることもできる。
また会場の最後に控えめに展示してある作品の中の作家本人の言葉にもぜひ注目してもらいたい。
【会期】2015年10月31日(土)~2016年3月6日(日)
【会場】森美術館(東京都港区六本木6-10-1)
【TEL】03-5777-8600(ハローダイヤル)
【休館】無休
【開館】月・水~日曜10:00~22:00、火曜10:00~17:00(最終入館時間は閉館の30分前まで)
【料金】一般1,600円 高校・大学生1,100円 4歳~中学生600円
【関連リンク】森美術館
★追加情報(2月26日)
会期最終の3日間に限り開館時間延長が決定。
3月4日(金) 朝8:00~深夜1:00
3月5日(土) 朝8:00~深夜1:00
3月6日(日) 朝8:00~夜10:00
※最終入場時刻=3月4日・5日は夜12:00、6日は21:30