デジタルカウンターによって表現された人間の「生と死」―2003年に六本木ヒルズ内に設置された宮島達男氏のパブリック・アート『Counter Void』が今年5年ぶりに3日間限定で再点灯することが決定、28日に宮島氏本人が出席のもと記者会見が行われた。3月11日から3日間のみ再点灯される巨大な作品。その意味とは。(取材・文/橋爪勇介)
多くの人が行き交う六本木のけやき坂で大きな存在感を放っていた『Counter Void』が消灯したのは東日本大震災が発生した2011年3月11日から2日後の3月13日。宮島本人の意向により、犠牲者への鎮魂の意味を込めてその光が消された。今回、その『Counter Void』が「Relight Days」として登場する。
5年間の沈黙を続けた『Counter Void』について宮島氏は「3.11のとき、多くの方々が亡くなったというショックとともに、電力の問題も起こった。そんな経緯があり、私自身も何かしなければいけないという想いから消灯できないかとテレビ朝日に持ちかけた。5年経った今も点いていないので、その間東京に来た若い世代にとっては、“何もないガラスの壁”と認識している人もいる。震災から3年ほど経過した時、皆が共有していた震災以降の世界が忘れ去られていくことに忸怩たる思いがあった。同時に『Counter Void』を点けてもらえませんかという声も上がってきた。そうして『Counter Void』を再生するプロジェクトができないかと考え、立ち上げた」と今回の経緯について説明。
現在もスイッチを入れれば点く状態にある同作だが、「ただ点ければいいという話ではない」と言う。「点ける意味、意義を鑑賞者と共有しつつ、点灯ということを考えていきたいと考えたのでプロジェクトを立ち上げ、様々な人を巻き込んだ状態で、点ける点けないという話も含め議論しあった。3.11以降の世界、3.11そのものをもう一度みんなで考えていきたい」と再点灯への思いを語った。
今回のプロジェクトはアーティスト(=宮島)の意向を全面に押し出した一般的なアートプロジェクトではなく、点灯の是非も含め、「Relight Days」を運営する「Relight Project」のコミッティーに投げかけており、宮島氏自身はミーティングにすらほぼ参加しなかったという。「私自身はきっかけはつくったが、実際にプロジェクトをビルドアップしたのはコミッティー。今回は宮島達男の作品を使って、違うプロジェクトをやっている感じ。私は作者ではなく、一応援団としてここにいる」。
ではなぜ恒久的な点灯ではなく3日間限定なのか?この問いに対し「Relight Project」事務局長の林曉甫氏は「一つは非常に多くの電力を使うということ。また今回の再点灯は今までのパブリックアートを取り戻すことではなく、違う意味合いをつけたシンボルとしたい。東日本大震災の3.11から宮島さんが消灯を決断した3.13までの“揺らぎ”のような3日間を点灯期間にすることにした」と説明。これを受けて宮島氏は「(3日間限定という)この話を聞いたとき面白いなと思った。ずっと点きっぱなしになると日常になってしまう。そうすると点いていた意味や消えていた意味が人々の心にフィードバックしない。限定された3日間の点灯によって『これって点くんだ』『なんで消したの』といった色々なことを想起させることができる」と述べた。
再点灯することで消灯の意味を再浮上させる今回のプロジェクト。震災から5年を契機に、改めて『Counter Void』と向き合いたいと感じさせる試みだ。
【会期】2016年3月11日(金)~13日(日)
【会場】六本木ヒルズけやき坂『Counter Void』前(東京都港区六本木6-9)
【料金】無料
【点灯時間】3月11日(金) 18:00~24:00/12日・13日 10:00~24:00
■点灯式
3月11日(金) 17:50~18:00 ※事前予約不要
■参加型プログラム「Memento」「Reflection」
「Memento」 朗読とチェロの演奏や参加型パフォーマンス
【日時】3月12日(土) 14:00~16:00
「Reflection」 参加型サウンドインスタレーションやワークショップ
【日時】3月12日(土) 18:00~20:00
【関連リンク】Relight Project
【関連記事】アートバーゼル香港に宮島達男の巨大パブリックアート《Time Waterfall》が登場