[寄稿]ジョルジョ・モランディ―終わりなき変奏―:成相肇

2016年02月15日 09:27 カテゴリ:最新のニュース

 

土色のサスペンス劇場

 

 

たらちねの、母。瀟洒な、マンション。静謐な、モランディ。というような符牒でもあるのかと思うほど、モランディについての短い紹介文などに静謐、静寂といった言い回しを見かける。常套句である。まさか「静物画」だから静かだというわけではあるまいが、そう書けば上品な香りが漂うとは限らず、むしろモランディに関しては徒らに印象を損ねることにならないだろうか。

 

モランディは静かではない。

 

たとえば、いわゆる背景だけでも相当、穏やかでない。いわゆる、と言わねばならないほど、それは手前にある器などと張り合っていて、手応えがある。モランディの絵では、じつに色面どうしが押しくらまんじゅうをしているのだ。モランディの線は揺らいでいると指摘されるが、正しく言えばこれは隣接する領域が互いに押し合った結果としての痕に他ならない。だからこそ、奥にあるはずの器の輪郭が手前ににゅっとはみ出しているようなことがしょっちゅう起こっているのである。静かどころではない賑やかなダイナミズムが確かにある。この饒舌な密度と手応えのドラマは、やはり作品を見ていただくに如くはない。

 

 

日本では17年ぶりとなるこのたびのモランディ展は静物画を中心とする約100点で構成され(17年前の展覧会は花と風景という変化球的なテーマだった)、「終わりなき変奏」の副題どおり、同一の瓶や壺などをしつこく描いたこの画家の、方法としてのバリエーションをテーマとしている。わずかな入れ替えで全く異なる画面の統一を見出す画家の力量と細やかな冒険の軌跡を辿るのは、とても楽しい。

 

ただし図像的な間違い探しに走れば、イメージに拘ることでまたぞろ静謐の語を引き寄せかねない。卓上の器として見るのは寂しい。ここはぜひ、バリエーションで千変万化する空間の妙を味わってもらいたい。「空間」という便利な語でつい済ませてしまうけれど、それを削ったり膨らませたり融合したりする技の凄みに存分に触れられる機会は多くない。ぎゅうぎゅうに詰まった複数の空間が織りなすスリルとサスペンスをご覧になれば、ともすれば孤高の画家と呼ばれてしまうモランディが、20世紀半ばの同時代的な絵画の課題をいかにクリアしようとしていたのかも、見えてくることだろう。

(東京ステーションギャラリー学芸員)

 

 

 

 

 

【会期】2016年2月20日(土)~4月10日(日)

【会場】東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1-9-1)

【TEL】03-3212-2485

【休館】月曜、祝日のとき翌日

【料金】一般1100円 高校・大学生900円 中学生以下無料

【関連リンク】東京ステーションギャラリー

 


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