釜の変遷を展望
茶会を催すことを「釜をかける」というほどに、釜は茶の湯における重要な道具の一つである。茶会の中でも代表的な昼間に行われる茶事では、客が茶室に入った時、席中には床の掛物と釜があるのみである。やがて主人が出てきて、炭を直し、釜に煮えがつくのを待つ。茶を点てるための茶碗や茶入などの茶道具は、客が入席してのち、順次水屋(勝手)から運び出され、終れば水屋に運び去られる。最初に客の目をひいた掛物も、茶会の途中でおろされ、替わって花を活けた花入が床の見どころになる。客が茶室に入った時から退出するまで、席中に常時あって替わらない茶道具は、釜だけなのである。いわば、釜が茶の湯の主人公の位置にあるといってもよいだろう。
日本での釜の起源は奈良時代まで遡り、寺院や神社における宗教行事や、日常生活においては湯を沸かし、飯を炊くなど実用的な道具として使われていた。喫茶の風習が中国より請来し、室町時代に座敷において道具の鑑賞がなされるようになると、必然的に見た目に美しい釜が選ばれるようになったと考えられている。桃山時代になり千利休による侘び茶の大成から茶の湯が形式化されるにつれて、釜は茶人の審美眼に適うように「茶の湯釜」として変化し形づくられていったのである。
本展は、「茶の湯釜」の研究者である原田一敏氏(東京藝術大学大学美術館教授・元東京国立博物館金工室長)の監修により構成され、芦屋釜・天明(てんみょう)釜に加え、利休の釜師として知られる辻与次郎の釜など初期の京釜や、江戸時代の釜にも焦点を当て、奈良時代から近世までの釜の変遷を名品の数々によって展望する。
展示では、重要文化財に指定されている9点の釜(※)すべてが、初めて一堂に会する。また、信長・秀吉・利休・織部などが愛でたと伝わる釜も勢揃いする千載一遇の機会となる。先人たちによって守り継がれてきた名品たちの息吹をどうぞご堪能あれ。(MIHO MUSEUM学芸員)
※ 茶の湯釜に国宝指定品はありません。
【会期】2016年6月4日(土)~7月31日(日)
【会場】MIHO MUSEUM(滋賀県甲賀市信楽町田代桃谷300)
【TEL】0748-82-3411
【休館】月曜、祝日のとき翌日
【開館】10:00~17:00(入館は16:00まで)
【料金】一般1100円 高校・大学生800円 小・中学生300円
【関連リンク】MIHO MUSEUM
■講演会「茶席の主―茶の湯釜の歴史―」
【講師】原田一敏(東京藝術大学大学美術館教授・元東京国立博物館金工室長)
【日時】6月25日(土)14:00~15:30
【会場】MIHO MUSEUM 南レクチャーホール
【料金】無料(入館料は必要) ※当日先着100名、美術館棟受付にて当日10:00より整理券配布