看護師、給水所、日傘…来館者の安全確保第一にスタッフ総出で対応
65歳以上の入場料が無料になるシルバーデーの5月18日、東京都美術館で開催されている「生誕300年記念 若冲展」では最大で320分待ちの長蛇の列ができた。東京都美術館でも「例がない事態」(東京都美術館広報談)だ。
東京初の若冲大回顧展となった今展は「釈迦三尊像」3幅(相国寺蔵)と「動植綵絵」30幅(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)が一堂に会する機会として様々なメディアで大々的に取り上げられており、5月2日に来場者数10万人、10日には20万人を記録。会期終了までに30万人突破は必至のペースとなっている。
しかし今展は最初から長蛇の列ができていたわけではない。会期初日の4月22日(金)時点では20分程度の待ち時間で、最初の週末となった4月23日(土)・24日(日)でも最大50分程度だった。来場者の増加が目立ち始めたのはゴールデンウィークが明けてから。5月8日(日)までは最大で140分だった待ち時間が10日(火)には160分、11日(水)には200分と「それまでの1.5倍になった」(同)という。早朝5時から並ぶ人もいるという美術館側にとっても予想以上の現状だが、混雑が激化するのに伴いSNSでは戸惑いの声も多く上がっている。ではこの状態に対し、美術館はどのような対策を取っているのだろうか。
上野駅のほど近く、東京文化館前では現時点での待ち時間を知らせるプラカードを持ったスタッフが立ち、対応に当たる姿が見えた。また美術館では来館者が体調を崩した場合に備えるために看護師が巡回しているほか、2カ所に給水所を設置。臨時の自動販売機も置き、水分補給を呼びかける。このほか塩分補給用の飴の提供や、直射日光を防ぐテントの増設や日傘の貸出しなど、「来館者の安全第一」を考えて職員総出で対応。図録だけを求める来館者のために臨時の販売所も設置した。主催の東京都美術館、NHK、日本経済新聞社では定期的に対策会議を開き、適切な導線の確保などについて協議しているという。
大型展では盛況の場合、開館時間や会期を延長するなどの対応で混雑を緩和させる場合もあるが、「若冲展」は日本画(照明に対して非常にデリケートな作品)のため難しい。また整理券の配布も会期前から告知していれば可能だが、現時点からの対応は現実的ではないだろう。その上、整理券を求めて同じような長蛇の列が発生する可能性も十分に考えられる。解決策として「入館時間指定券」や「ファストパス」のようなシステムが考えられるが、現状の美術館大型展での実現は不透明だ。
誰もが予想していなかった“若冲フィーバー”だが、会期終了まで1週間を切り、今後どれだけの来館者が押し寄せるかは全く予想がつかない状態だ。また20日(金)からはチケット購入場所が東京都美術館のみとなるため、更なる混雑も予想される。来館の際は事前に「若冲展」公式ウェブサイトまたは公式twitterで混雑状況をチェックしてもらいたい。(取材・文/橋爪勇介)