コレクション展「現代美術に魅せられて」でたどる、原美術館の歩み

2018年05月10日 18:06 カテゴリ:最新のニュース

 

草間彌生《自己消滅》1980年 ミクストメディア ©Yayoi Kusama 撮影:木奥惠三 前期展示

草間彌生《自己消滅》1980年 ミクストメディア ©Yayoi Kusama 撮影:木奥惠三 前期展示

 

「現代美術に魅せられて-原俊夫による原美術館コレクション展」が、東京・品川の原美術館で6月3日まで開催されている。今展は、同館の創立者で現館長の原俊夫が初めてキュレーションを担当した展覧会。展示作品を通し、同館のコレクションの独自性が感じられる内容となっている。

 

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同館は1979年、日本における現代美術館の先がけとして開館。1977年設立の現・公益財団法人アルカンシエール美術財団を母体に、1950年代以降の絵画、立体、写真、映像、インスタレーション等を丹念に収集しつづけ、現在のコレクションは約1000点となる。

 

原俊夫が日本に現代美術館をつくろうと決意したのは、40歳の頃だった。デンマークでルイジアナ美術館を訪れた際、個人の邸宅が心地よい美術館へと変貌を遂げた様に感銘を受け、当時空き家となっていた祖父(実業家・原邦造)の屋敷を利用することを決める。1988年には群馬県渋川市に、磯崎新設計の別館「ハラ ミュージアム アーク」を開館した。

 

日本の私立美術館は、個人や企業のコレクションを基に開館する場合が多い。しかし同館の収蔵作品は、すべて財団設立後に原が自分の目で選んで購入したものだ。原は美術館の顔であるコレクションについて、「私の挑戦の軌跡」と語っている。「可能な限りアトリエや自宅を訪ねて作家と会い、海外にも赴く。表現者が何を想い制作に至るか、作品を観るだけでなく直接話を聞くことで学び、自分の目でコレクションを築く。この姿勢は現在まで貫いている」。李禹煥初期の代表作《点より》《線より》(いずれも1979年)や、工藤哲巳の初期の秀作《平面循環体に於ける増殖性連鎖反応》(1958年)のように、作家の自宅を訪ね、作家が大切に身近においていた作品を購入した例も少なくない。また、アイ ウェイ ウェイの初期絵画《毛像組1》(1985年)は、台湾の画廊で心惹かれ、作家を知らずに購入した。20数年の時を経て作家と北京で出会った際、「私の作品を世界で初めて購入した美術館が原美術館です」と話しかけられたそうだ。

 

杉本博司《仏の海》1995年 ゼラチンシルバープリント 42.3 x 54.2 cm each ©Hiroshi Sugimoto 通期展示

杉本博司《仏の海》1995年 ゼラチンシルバープリント 42.3 x 54.2 cm each ©Hiroshi Sugimoto 通期展示

 

会期中のトークイベントで自身の活動を振り返る杉本博司氏。終盤には「私は現代美術を通して過去を見つめている」と語った。

会期中のトークイベントで自身の活動を振り返る杉本博司氏。終盤には「私は現代美術を通して過去を見つめている」と語った。

 

会期中の2月3日には、現代美術作家・杉本博司のトークイベントが開かれ、2017年10月に開館した「小田原文化財団 江之浦測候所」や、同年NYのジャパン・ソサエティー・ギャラリーで開かれた個展の内容を中心に、自身の制作の現在地について語った。また、2019年にはパリ・オペラ座で杉本演出による「At the Hawk’s Well/鷹の井戸」の上演が決定したことも発表。アイルランドの詩人・劇作家ウィリアム・バトラー・イェイツが能楽に影響を受けて執筆した同戯曲を原作に、音楽・空間演出に池田亮司、振付にアレッシオ・シルベストリンを迎え、リック・オウエンスによる衣裳でオペラ座のバレエダンサーとの初のコラボレーションに挑む。なお今回のコレクション展で出品されている1995年作の《仏の海》は、京都・三十三間堂の千体仏を撮影した作品だ。原俊夫と杉本博司との交流は長く、1996年にハラ ミュージアム アークで個展を開催。2012年には原美術館で「杉本博司 ハダカから被服へ」展を開催している。日本の美術館の中ではかなり早い段階で、杉本の活動を取り上げた館だと言えるだろう。

 

今展は前期・後期に分けられ、現在開催中の後期展示は、原が美術館の開館後に出会い、主に展覧会の開催をきっかけに購入した90年代~現在に至るまでの作品群で構成されている。出品作家は安藤正子、荒木経惟、ヤン ファーブル、加藤泉、ウィリアム ケントリッジ、森村泰昌、奈良美智、名和晃平、蜷川実花、野口里佳、マリック シディベ、杉本博司、束芋、ミカリーン トーマス、アドリアナ ヴァレジョン、やなぎみわ、ほか。世界的アーティストの貴重な初期作品をはじめ、一点一点吟味してコレクションされたことが伝わる展示内容となっている。なお6月16日から9月2日までは、絵画の構図を利用した映像や写真作品を制作する小瀬村真美の、美術館では初となる個展が開催。日本におけるモダニズム建築として名高い原美術館の空間と、小瀬村の作品がどのように響き合うのか。2019年にはいよいよ開館40周年を迎える同館の活動に、今後も注目したい。

 

ジャクソン ポロック《黒、白、茶》1952 カンヴァスに油彩 91×70 cm 撮影:木奥惠三 前期展示

ジャクソン ポロック《黒、白、茶》1952 カンヴァスに油彩 91×70 cm 撮影:木奥惠三 前期展示

 

【展覧会】現代美術に魅せられて-原俊夫による原美術館コレクション展

【会期】前期:1月6日(土)~3月11日(日) / 後期:3月21日(水・祝)~6月3日(日)

【会場】原美術館(東京都品川区北品川4-7-25)

【TEL】03-3445-0651

【休館】月曜、祝日のとき翌日

【開館】11:00~17:00(祝日を除く水曜は20:00まで/入館は閉館時刻の30分前まで)

【料金】一般1,100円、大高生700円、小中生500円/原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料/20名以上の団体は一人100円引

 

【関連リンク】原美術館

 


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