「ミュシャ」「国宝」「深海」「レアンドロ・エルリッヒ」「運慶」が60万人超え
― 行列が行列を呼ぶ超大型展 TwitterやInstagram積極活用へ ―
2017(平成29)年度は都内の大型館を中心に、新聞やテレビ等のマス広告による大規模な宣伝を行ういわゆる“ブロックバスター”型展覧会が好調であったが、近年は特にSNSの口コミ効果による、行列が行列を生む現象が過熱の一途を辿っている。こうした流れを受けて国立新美術館「ミュシャ展」「草間彌生」などでは一部展示が、森美術館「レアンドロ・エルリッヒ展」では全作品が撮影可能となるといった従来とは異なる動きが見られた。なお年度を通じて60万人以上が5件、上位20件が25万人以上となったのは、2000年度以降で初めてのことである。
展覧会名 会期 会場 主催 入場者数 1日平均 1 3/8~6/5 国立新美術館 657,350 8,321 2 10/3~11/26 京都国立博物館 624,493 13,010 3 7/11~10/1 国立科学博物館 617,062 7,811 4 11/18~18.4/1 森美術館 614,411 4,551 5 9/26~11/26 東京国立博物館 600,439 10,917 6 2/22~5/22 国立新美術館 518,893 6,486 7 4/8~9/24 日本科学未来館 473,903 3,097 8 10/7~12/17 上野の森美術館 414,006 5,750 9 4/18~7/2 東京都美術館 379,527 5,665 10 10/24~18.1/8 東京都美術館 370,031 5,607 11 6/20~9/24 国立西洋美術館 365,562 4,251 12 10/21~18.1/28 国立西洋美術館 364,149 4,441 13 7/5~10/23 国立新美術館 354,245 - 14 3/18~6/11 国立科学博物館 327,579 4,200 15 18.1/16~3/11 東京国立博物館 324,042 6,751 16 7/20~10/9 東京都美術館 313,131 4,349 17 9/27~12/18 国立新美術館 300,102 4,168 18 2/4~6/11 森美術館 300,043 2,344 19 7/18~10/15 国立国際美術館 278,723 3,484 20 7/22~9/18 兵庫県立美術館 271,689 5,327 21 10/6~11/19 あべのハルカス美術館 266,118 6,653 22 8/4~11/5 横浜美術館など3会場 259,032 2,944 23 4/11~6/4 東京国立博物館 245,795 5,016 24 2/10~5/28 国立西洋美術館 219,150 2,307 25 10/28~11/13 奈良国立博物館 217,053 12,768 26 3/18~6/18 森アーツセンターギャラリー 201,494 2,190 29 6/21~9/19 東京国立博物館 199,567 2,495 27 7/7~9/3 大分県立美術館 194,567 3,298 28 6/17~9/24 三菱一号館美術館 182,480 2,074 30 11/1~18.1/8 森アーツセンターギャラリー 182,014 2,6812017(平成29)年度 展覧会入場者数BEST30
入場者数
ミュシャ展
(79)国立新美術館、プラハ市、プラハ市立美術館、 NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
特別展覧会「国宝」
(48)京都国立博物館、毎日新聞社、NHK京都放送局、NHKプラネット近畿
特別展「深海2017」
(79)国立科学博物館、海洋研究開発機構、NHK、NHKプロモーション、読売新聞社
レアンドロ・エルリッヒ展
(135)森美術館
興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」
(55)東京国立博物館、法相寺大本山興福寺、朝日新聞社、テレビ朝日
草間彌生 わが永遠の魂
(80)国立新美術館、朝日新聞社、テレビ朝日
ディズニー・アート展
(153)日本科学未来館、日本テレビ放送網、読売新聞社、WOWOW
「怖い絵」展
(72)
産経新聞社、フジテレビジョン、上野の森美術館
ブリューゲル「バベルの塔」展
(67)東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、朝日新聞社、TBS、BS朝日
ゴッホ展 巡りゆく日本の夢
(66)東京都美術館、NHK、NHKプロモーション
アルチンボルド展
(86)国立西洋美術館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
北斎とジャポニスム
(82)
国立西洋美術館、読売新聞社、 日本テレビ放送網、BS日テレ
サンシャワー
:東南アジアの現代美術展
(96/111)
/森美術館国立新美術館、森美術館、国際交流基金アジアセンター
(2館合計)
大英自然史博物館展
(78)国立科学博物館、読売新聞社、BS日テレ
仁和寺と御室派のみほとけ
(48)東京国立博物館、真言宗御室派総本山仁和寺、読売新聞社
ボストン美術館の至宝展
(72)神戸市立博物館、朝日新聞社、朝日放送、BS朝日
安藤忠雄展
(72)国立新美術館、TBS、朝日新聞社
N・S・ハルシャ展
(128)森美術館
ブリューゲル「バベルの塔」展
(80)国立国際美術館、朝日新聞社、朝日放送、BS朝日
「怖い絵」展
(51)兵庫県立美術館、産経新聞社、関西テレビ放送、神戸新聞社
北斎 ―富士を越えて―
(40)あべのハルカス美術館、NHK大阪放送局、NHKプラネット近畿、朝日新聞社
ヨコハマトリエンナーレ2017
(88)横浜市、(公財)横浜市芸術文化振興財団、 NHK、朝日新聞社、 横浜トリエンナーレ組織委員会
※関連プログラム含む
茶の湯
(49)東京国立博物館、NHK、NHKプロモーション、毎日新聞社
スケーエン:デンマークの芸術家村
(95)国立西洋美術館、スケーエン美術館、東京新聞
※常設展入場者数
第69回 正倉院展
(17)奈良国立博物館
大エルミタージュ美術館展
(92)エルミタージュ美術館、日本テレビ放送網、読売新聞社、BS日テレ、森アーツセンター
古代ギリシャ ―時空を超えた旅―
(80) 東京国立博物館、ギリシャ共和国文化・スポーツ省、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション
ジブリの大博覧会
(59)ジブリの大博覧会大分実行委員会、大分合同新聞社、TOSテレビ大分、公益財団法人 大分県芸術文化スポーツ振興財団・大分県立美術館
レオナルド×ミケランジェロ展
(88)三菱一号館美術館、日本経済新聞社
THE ドラえもん展
(69)テレビ朝日、朝日新聞社、ADK、小学館、シンエイ動画、 小学館集英社プロダクション、乃村工藝社、森アーツセンター
●調査対象:全国で開催された展覧会の中から、2017年4月~2018年3月に会期がかかるものを任意で抽出。
●会期:カッコ内は開催日数。 ●入場者数:基本的に主催館発表による。 ※「レアンドロ・エルリッヒ展」「N・S・ハルシャ展」「THE ドラえもん展」は森美術館・東京シティビュー連動入館者数を記載。
2017年度を通じて最も入場者数が多かったのは、国立新美術館で開催された「国立新美術館開館10周年 チェコ文化年事業 ミュシャ展」の65万7,350人だった。
同展は、アール・ヌーヴォーを代表するチェコの芸術家アルフォンス・ミュシャ(1860-1939)が晩年に手掛けた幻の傑作《スラヴ叙事詩》全20点を、チェコ国外では世界で初めて一堂に展示するというもの。日本では美しい女性像や流麗な植物文様のポスターなど装飾画で知られるミュシャが手掛けた、横8.1m、縦6.1m(最大)の大作が並ぶ圧倒的な展観は、私たちのミュシャ観を大きく変える画期的な展示であった。
国立新美術館では、このほか「草間彌生」展、「ジャコメッティ展」、「安藤忠展雄」、「新海誠展」という開館10周年を冠した4つの大型企画展を開催。公募展では「改組 新 第4回日展」が12万5,776人、また森美術館との2会場で開催した「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」では35万4,245人(2館合計)を動員している。
一方、同じく節目の年であった京都国立博物館では「開館120周年記念 特別展覧会 国宝」が62万4,493人という開館以来の入場者数を記録した。1日当たり1万3,010人は年間1位。これに奈良国立博物館「第69回 正倉院展」の1万2,768人、東京国立博物館「運慶展」の1万917人が続く。
展覧会では、現在国宝に指定されている美術工芸品の約4分の1にあたる210件を4期に分けて紹介し広く国内外の注目を集めた。京都国立博物館は同展や春の「海北友松」など年間の展示を通じて、文化・芸術への関心を高め、関西から日本文化の奥深さを示したとして、平成29年度「関西元気文化圏賞特別賞」を受賞している。関西ではそのほか、兵庫県立美術館の「怖い絵」展が27万1,689人、あべのハルカス美術館の「北斎―富士を越えて―」が26万6,118人を動員している。
大型企画展における入場規制や長い行列はこれまでも珍しい光景ではなかったものの、最大5時待ちとなった16年の東京都美術館「若冲展」のように、近年は特に行列が行列を呼ぶ現象が過熱している。昨年度において特に顕著だったのが、上野の森美術館「怖い絵」展だろう。
中野京子氏のベストセラー『怖い絵』をもとにした同展は、チラシやポスターなどに使われたポール・ドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑》の強烈なイメージや「恐怖」というシンプルなテーマが若い世代を中心に人気を集め、最高200分超の入場待ちに。会期途中から開館時間が延長されたものの行列は縮まらず、SNS上では連日、同展の待ち時間が話題となった。従来の展覧会とは一風異なるアプローチから分かりやすく絵画を読み解くという内容も好評で、有料の音声ガイドの利用率が45%を超えるなど話題に彩られた展示となった。
美術館や展覧会の公式Twitteなど、広報活動の一環としてSNSが利用されるのはもはや当たり前だが、その普及によって展覧会そのものも姿を変えつつある。「ミュシャ展」や「草間彌生」展では一部展示室での撮影が許可され、また、森美術館「N・S・ハルシャ展」では貸切の撮影イベントが開かれた。4月1日まで開催された「レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル」も全作品が撮影可能で観客参加型の作品もあり、館側もSNSでの発信を積極的に呼びかけた結果、61万4,411人という入場者数を記録。これは開館記念展「ハピネス」の73万985人に次ぐ歴代2位の入場者数である。SNSの特性や訴求力に注目し、積極的に展覧会づくりに取り入れようという動きはこれからも増えていくだろう。
(編集部)