作家、美術評論家・批評家、美術館・画廊関係者はそれぞれの立場から2014年をどう振り返り、2015年に何を見出すのか。アンケートを募った中から26名の回答を掲載する。
【凡例】
■氏名(肩書き)
▽2014年印象に残った展覧会(美術館・画廊・芸術祭など)
▼美術界において印象に残った出来事、および2015年への展望
■秋元 雄史(金沢21世紀美術館館長)
▽①生誕150年記念・近代加賀蒔絵の名工大垣昌訓(金沢市立中村記念美術館) ②超絶技巧! 明治工芸の粋(三井記念美術館他) ③猪倉髙志展 かげを纏うかたち(中長小西)
▼今年も女性アーティストの活躍が目立つ。東京都庭園美術館のリニューアル開館では内藤礼の「信の感情」がよかった。また工芸でも同様に女性が目立つ。金沢周辺では、斉藤まゆ、佐合道子、牟田陽日、水元かよこなど。
■池田 龍雄(画家、造形作家)
▽①ハイレッド・センター:「直接行動」の軌跡展(渋谷区立松濤美術館) ②赤瀬川原平の芸術原論展(千葉市美術館)
▼この数年の間に戦後の50年代、60年代の美術が改めて評価されているようです。それは大いに歓迎すべきことで、未来のために美術館などがこのような役割を果たして欲しいものです。
■入江 観(洋画家、春陽会会員、日本美術家連盟理事)
▽①増田常徳展(原爆の図丸木美術館) ②水上泰財展(アートギャラリー呼友館) ③加藤力之輔展(印象社ギャラリー)
▼団体展の作家は比較的人の眼に触れる機会が多いが、その外側で、独りで歩き続けている作家に対して、美術ジャーナリズムが眼を向けて欲しいものだと思う。
■大成 浩(彫刻家、国画会会員、日本美術家連盟理事)
▽①吹田文明展(シロタ画廊) ②菊地伸治展(いりや画廊) ③原透展(ギャルリー志門)
▼人の表現は、その必要に応じ多種多様である。近年その領域で、作家自身の視界、思考の狭小化を感じる。鋭さや深さと共に、広大な宇宙への想いや願いが明日への夢として、もっと大きく、強く語られてもいいのではないだろうか。
■大樋 年雄(陶芸家)
▽①ジャパン・アーキテクツ 1945―2010(金沢21世紀美術館) ②古田織部400年忌 大織部展(岐阜県現代陶芸美術館) ③The MAD Biennial(The Museum of Arts and Design)
▼現代美術の学識者、また建築家などが工芸を新たな視点で捉え始めた。この動向からすると、これからの日本の工芸は、普遍の領域と現代美術と同期する領域とに二分化されていくような気がする。作家は信念に沿って制作していかなければならない気がする。
■笠井 誠一(洋画家、立軌会同人)
▽①バルテュス展(東京都美術館) ②没後90年 鉄斎 TESSAI(出光美術館) ③フェルディナント・ホドラー展(国立西洋美術館)
▼日本画、洋画、現代絵画の壁がなく表現様式の幅が広がっている。写実絵画も灰色系から色彩を加えた幅広い表現への展開が見られた。深遠も一層本格的な絵画表現を期待したい。
■加藤 種男(公益社団法人企業メセナ協議会専務理事)
▽①国東半島芸術祭(大分県国東半島) ②「たよりない現実、この世界の在りか」展を中心とした資生堂ギャラリー ③百島アートベース(広島県尾道市)
▼日展の改革に巻き込まれた。組織の中に入って、当事者の改革への予想外に真摯な姿勢に共感している。まだまだ課題は多いが、方向は明確になった。私のようなものが参画したのが何よりの証拠だ。改革を加速し、幅広く社会の理解を得るところまで応援していく。
■黒田 雷児(福岡アジア美術館事業管理部長・学芸課長)
▽①造音翻士 戦後台湾声響文化の探索(何東洪・羅悦全・鄭慧華企画 高雄市立美術館) ②「われわれは〈リアル〉である 1920s―1950s プロレタリア美術運動からルポルタージュ絵画運動まで:記録された民衆と労働」(武蔵野市立吉祥寺美術館) ③「あしたのジョー、の時代」展(練馬区立美術館)
▼ラワンチャイクン寿子(福岡アジア美術館)企画の「東京・ソウル・台北・長春―官展にみる近代美術」と国華図録賞受賞。釜山ビエンナーレの芸術監督選定に抗議した釜山の美術・文化関係者によるボイコット運動。
■小林 忠(岡田美術館館長)
▽①東山御物の美(三井記念館) ②台北 國立故宮博物院―神品至宝―(東京国立博物館) ③再発見 歌麿 深川の雪(岡田美術館)
▼名品、稀品、再発見ものなど、見応えのある美術品が展観に供され、眼福を得た1年であった。学芸員の研究成果によるテーマ性の強い企画展を期待したい。
■近藤 誠一(近藤文化・外交研究所代表)
▽①ボストン美術館浮世絵名品展 北斎(上野の森美術館) ②上村松篁展(京都国立近代美術館) ③日本の面影 エバレット・ブラウンの湿板光画で辿る旅(ギャラリーエークワッド)
▼芸術は職業や趣味としてではなく、感動を通して個々人にその潜在能力を引き出させる有効な手段である。今後の教育における芸術の扱いが、単に才能ある者への技術伝達の場ではなく、こうした観点からなされることを期待する。
■島谷 弘幸(東京国立博物館副館長)
▽①台北 國立故宮博物院―神品至宝―(東京国立博物館) ②改組 新 第1回日展(国立新美術館) ③東山御物の美(三井記念美術館)
▼海外美術品等公開促進法などにより、台北故宮展が開催されたことは、今後の文化財の相互の活用・理解の大きな一歩であった。
■宝木 範義(美術評論家)
▽①ヴァロットン展(三菱一号館美術館) ②フェルディナント・ホドラー展(国立西洋美術館) ③赤堀尚展(日本橋三越)
▼3.11の悲惨な体験が日本社会の今後に大きな課題を投げかけるなか、私たちのグローバル化した日常は、また一方でイスラム世界の混乱やエボラ出血熱の感染拡大など、世界の不安定さともリアルタイムで直面している。こうした環境下で美術表現に何が求められ、そして何が期待されているかを、より深く問うてしかるべきではかろうか。
■瀧 悌三(美術評論家)
▽①ボストン美術館浮世絵名品展 北斎(上野の森美術館) ②ヴァロットン展(三菱一号館美術館) ③洋画家たちの青春―白馬会から光風会へ(東京ステーションギャラリー)
▼日展改革。受賞者がお礼参りする悪習を無くしたのは善い。だが、外部依存症になるのはいけない。日展は美術家の団体なのだから、美術家が主体性を持ち、自浄力を持つようになるべし。それが出来ないと官展に戻るしかないから。
■武田 厚(美術評論家)
▽①ウィレム・デ・クーニング展(ブリジストン美術館) ②融合する工芸―出会いがみちびく伝統のミライ―(和光ホール) ③仏教美術のよろこび展(ロンドンギャラリー)
▼出来事というべき程のモノは今年も見当たらないが、強いて挙げれば「日展」の新スタートの状況か。11月の朝日新聞にその事が大きく載っていて驚いた。新組織・新システムの審査の成果として、5年、10年先の中味に期待したいもの。
■谷 新(宇都宮美術館館長)
▽①菱田春草展(東京国立近代美術館) ②「未完の地図」倉重光則展(奈義町現代美術館ギャラリー) ③北山善夫展「宇宙図」(MEM)
▼①開館年を戦後美術の転換点と見た「1974年」展(群馬近美)、脱エコールと“個”の視点で時代相をえぐり出した「あしたのジョーの時代」展(練馬区美)、「種村季弘の眼」展(板橋区美)が好企画 ②堀浩哉の『滅びと再生の庭』の出版③ 赤瀬川原平、辰野登恵子の死。
■土屋 誠一(美術批評家、沖縄県立芸術大学准教授)
▽①キャラクラッシュ!(カオス*ラウンジアトリエ)) ②所蔵作品展 MOMATコレクション「何かがおこってる」(東京国立近代美術館)
▼ろくでなし子氏の逮捕、愛知県立美術館「これからの写真」展での鷹野隆大氏の作品へのクレーム問題、この2つがネガティヴな意味で印象に残った。美術は治外法権ではないが、とはいえ我々美術関係者は表現の自由の領域を確保せねばならない。公権力の美術に対する介入には、徹底して抵抗すべきである。公権力の言いなりになっていては、美術は自らの自由を失い、先細りになっていくだけだろう。個人的には、集団的自衛権に対する抵抗のための展覧会として「反戦」展(SNOW Contemporary)を実施できたのは、手前味噌ではあれ極めて有意義であったと思う。また、「堀浩哉 起源」展(多摩美術大学美術館)にあわせて堀氏へのロングインタビューを実施し、カタログにその記録を掲載できたのは、堀氏の作家歴を再評価するのはもちろんのこと、美共闘の活動を美術史的に位置づけるための端緒にもなったと思う。2015年も、様々な局面での闘いは続くと思われる。
■土屋 禮一(日本画家、日展副理事長)
▽①栄西と建仁寺(東京国立博物館) ②立ちのぼる生命 宮崎進展(神奈川県立近代美術館 葉山) ③フェルディナント・ホドラー展(国立西洋美術館)
▼改組 新 第1回日展がやっと出発したところです。新しい骨格が出来つつあります。その中からきっと新しい生命が生まれるだろうことを祈るような思いでいます。
■中山 忠彦(洋画家、日展理事)
▽①ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館展(Bunkamura ザ・ミュージアム) ②ウフィツィ美術館展(東京都美術館) ③並木恒延漆芸展(ギャラリー長谷川)
▼昨秋第45回日展においての朝日新聞記事に由来する混乱の中で、改組 新 第1回日展開催に向けて、奥田新体制による改革への意欲と努力を評価したい。
■野地 耕一郎(泉屋博古館分館館長)
▽①宮忠子展(銀座フォルム画廊) ②野口哲哉展(練馬区立美術館) ③小川千甕展(福島県立美術館)
▼①~③の展覧会いずれにも共通している事。それは「越境」ということ。古いとか新しいとかを吟味するなんて無意味だ。他人の評価なんて一切関係なし。そんな美術と歴史の越境者(コスモポリタン)達の仕事が世界を鳥瞰し、世の人の思考を変えるのだ。
■野呂 洋子(銀座柳画廊副社長)
▽①日本国宝展(東京国立博物館) ②モネ、風景をみる眼―19世紀フランス風景画の革新(国立西洋美術館) ③ボストン美術館浮世絵名品展 北斎(上野の森美術館)
▼今年は日本の文化が大好きで守ろうとしている外国人に何人も出会いました。来年に向けて、海外も含めて日本の文化、芸術に関する情報発信を画廊の立場で、もっともっと強化していきたいと感じています。
■長谷川 智恵子(日動画廊副社長)
▽①守一のいる場所 熊谷守一展(岐阜県立美術館) ②岡田三郎助―エレガンス・オブ・ニッポン―(佐賀県立美術館) ③西洋近代美術と松方コレクション(鹿児島市立美術館)
▼2014年では、私が1977年にインタビューをしたフランシス・ベーコンのオークションでの落札価格の高騰。また、関西美術商連盟と大阪画商相互会の合併。2015年は日動画廊創立88周年なので90周年に向けての基礎作りをしたい。また、アジア各国との連携も視野に入れていきたい。
■馬場 駿吉(名古屋ボストン美術館館長)
▽①天心の思い描いたもの―ぼかしの彼方へ(茨城県近代美術館) ②「河口龍夫 小さな闇 小さな命」展(極小美術館) ③赤瀬川原平の芸術原論展(千葉市美術館)
▼今年も20世紀半ばから21世紀にかけてのアート・シーンで活躍した作家の訃報が相次いだ。なかでも河原温、赤瀬川原平が世を去ったのは同世代として喪失感は深い。21世紀美術を際立たせる作家の出現に期待したい。
■土方 明司(平塚市美術館館長代理)
▽①O JUN 描く児(府中市美術館) ②魂の深淵をひらく―遠藤彰子展(上野の森美術館) ③スサノヲの到来 ―いのち、いかり、いのり(足利市立美術館)
▼地方公立美術館の経営の不安定化。事業費(展覧会)、収集予算共に削減。今後、美術館の序列化がますます進むだろう。学芸員の先見性と独自の事業展開が更に必要となる。
■三田村 有純(漆芸家、日展会員)
▽①超絶技巧! 明治工芸の粋(三井記念美術館他) ②うるしの近代――京都、「工芸」前夜から(京都国立近代美術館) ③奥田小由女展(日本橋髙島屋)
▼日展が大きく変わりました。私自身も42年間に渡り出品し、先代の赤塚自得、祖父、父、私と旧日展からの長い関わりを考えると感慨無量です。新しい年、芸術を通した世界との交流、漆の世界遺産登録実現に向かいます。
■藪野 健(洋画家、二紀会副理事長)
▽①荒川修作の軌跡―天命反転、その先へ(早稲田大学會津八一記念博物館) ②われらの地平線展 (日本橋三越)
▼今年2月中央公論新社より『早稲田風景―紺碧の空の下に―』を出版。制作とともに気になる作家の調査研究を続けたい。2016年二紀展は70回を迎えるが、公募展の在り方を考え更に新旧世代を生かした展開を模索していきたい。
■山本 豊津(東京画廊代表取締役)
▽①ヨコハマトリエンナーレ2014(横浜美術館) ②神山貴彦(ignore your perspective 25「JUST THE WAY IT IS」)(児玉画廊) ③高松次郎ミステリーズ(東京国立近代美術館)
▼1960年〜70年の日本の現代美術が欧米で関心がもたれ、具体・もの派のアーティストたちの作品が高い価格で取引きされるようになった。自国のアートを己の力で外国へ紹介できるアーカイブが今後の課題になります。