2014年における「アール・ブリュット」関連の主だった出来事を、展覧会を中心に書き出してみよう。
3月、滋賀県近江八幡市で「アール・ブリュット☆アート☆日本」展が開催された。ボーダレス・アートミュージアムNO-MAや町屋など約8会場を用いた大規模な展覧会で、文化庁の「地域と共働した美術館・歴史博物館創造活動支援事業」の採択を受けている。
3月から11月まで、スイスはザンクト・ガレンのラーガーハウス美術館で「アール・ブリュット 日本 スイス」展が開催された。日本・スイス国交樹立150周年の記念事業のひとつで、10月には2日間にわたり国際シンポジウムが開催された。
6月、福島県猪苗代市に、築120年の蔵をリノベーションして、アール・ブリュットをはじめとするさまざまな展示の場となる「はじまりの美術館」がオープンした。東日本大震災後に村上隆が提唱してニューヨークのクリスティーズで開催されたチャリティオークション「NEW DAY」に基づく寄付金が使われてもいる。
7月、川崎市岡本太郎記念美術館で「岡本太郎とアール・ブリュット―生の芸術の地平へ」が、10月にはメルボルン大学で4日間にわたり国際シンポジウム「Contemporary Outsider Art: The Global Context」が開催された。
そのほか、厚生労働省が予算一億円規模の「障害者の芸術活動支援モデル事業」を実施、全国5か所の施設が選ばれた。また文化庁の「戦略的芸術文化創造推進事業」の一環として、アール・ブリュット関連としては、「心揺さぶるアート事業」(実行委員会の事務局は埼玉県立近代美術館に設置)と「公立美術館におけるアール・ブリュット作品の普及・展示活動に関する調査研究事業」(同、滋賀県立近代美術館)が採択された。
アール・ブリュットに対する関心は明らかに高まっている。それゆえと言ってよいだろう、NHKラジオの「ホットトーク」(4月2日)、NHK総合のNEWS WEB(5月6日)、J-WAVEのアトリエノバ(8月9日)それぞれに私は生放送で出演し、現況を説明したりもした。
しばしば聞かれるのは、「なぜ今アール・ブリュットなのか?」という質問だ。それに対しては、あくまでも私見と断ったうえで、次のように答えている。
①高齢化社会や格差社会や差別などが問題化するなかで、インクルーシヴなコミュニティを形成する方との一つとして可能性が見出されている(アール・ブリュットの作品の発表には、往々にして第三者の支援が必要となるから、必然的にコミュニティが形成されやすいのである)。
②戦略と市場の相互作用が過熱化しているアートワールドに対して、カウンターとして機能することが期待されていると思われる。