木彫は独学。ノミを一本と、木槌、砥石を購入し、彫り始めた。修士課程の2年、そして助手として残り、学内で制作を続けた。当時、有元利夫と知りあう。有元は電通に入社後も、世話になった大藪雅孝のもとへ顔を出していた。絵の話が白熱するふたりの間で、池田はぽつんと聞いていたという。
彫刻は自由な時間だった。スチール棚は完成作でうまっていく。それを見た有元が展覧会をやろうと銀座のみゆき画廊に連絡をとった。資料を持ってくるようにいわれた池田は彫刻をふたつ取り出し、コートでくるんでタクシーに乗った。画廊主は驚くが、その意気込みを買い、すぐに展覧会を決めた。77年、初個展「木質と量塊への志向」が開かれた。彫刻家・池田政治の出発点である。
なだらかな曲面と線、作家のアクションが甦るノミをあてた痕跡と、池田は「かたち」について考え続けてきた。そこに、手ずれのような温かみが宿る、拭き漆の表情も見ることができる。
個人的な仕事と言える木彫と違い、公共空間への作品はクライアントとの協働作業である。ときには署名も残さない、無名性の高い仕事だ。作家としての自我が現れる瞬間と、黒子に変じる時。作品にもただよう、東洋的な調和を思わす。
抽象形態を追い求める中で、いつしか人や鳥の具象的な姿が複合されてきた。作品を作る意味を「いろいろな制約から解放され、日常と異なる世界を見せたいから」と池田は話す。アウト・オブ・サイト。まだ見ぬ先へ。退任展というひとつの区切りが、次に目指すべき道を照らす光となるのだろう。
(取材・文/袴田 智彦)
池田政治 退任記念展 アウト・オブ・サイト
【会期】 2013年1月4日(金)~22日(火)
【会場】 東京藝術大学 大学美術館陳列館(東京都台東区上野公園12-8)
☎03-5777-8600(ハローダイヤル)
【休館】 1月7日(月)、19日(土)、20日(日)
【開館時間】 10:00~17:00(入館は閉館30分前まで)
【料金】 無料
【関連リンク】 東京藝術大学大学美術館 公式ホームページ
関連企画:第8回かたち展 -材と質―
池田研究室で空間デザインを学んだ同大の教員、OB教員が、「材と質」をテーマに制作した作品を展示販売。
【出品作家】 橋本和幸、本郷信二、酒百宏一、齋藤篤、佐久間あすか、青木宏希、兼子真一、山下愛吏、柚木恵介、松枝悠希、糸賀広美、小野哲也
【会期】 2013年1月4日(金)~18日(金)
【会場】 東京藝術大学 藝大アートプラザ
☎050-5525-2102
【休館】 1月7日(月)、15日(火) 【料金】 無料
「新美術新聞」2013年1月1・11日号(第1300号)9面「青春プレイバック」より
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