美術家が“最高の姿”で輝くために
2004年の就任から10年目。落ち込んだ入場者数を上向かせ、「平塚市美術館」らしい、良質な展示を打ち出してきた。なぜ、順調か?「良い企画展をするだけ」と答えはシンプルだ。けれど、それが難しい。予算縮減など、厳しい状況は他館とかわりない。その舞台裏の一端を、『美術館へ行こう』(岩波ジュニア新書、3月刊行)に明かした。平易な語り口ながら、年齢問わず読みごたえは十分だ。
横浜生まれ。慶應義塾大学卒業後、山種美術館に長年つとめた。学芸員として40年。日本画を専門に、実現した企画展は数え切れない。学芸員は「一に体力、二に愛嬌」と書く。出張が多く、今もコレクターとのつながりは貴重な財産という。「小さな館でも、良い学芸員がいれば良い展覧会ができる。コレクターは、館ではなく“あなた”に貸す、そういう気持ちなのです」。就任当初と比べると、全国区の作家や「平塚発」ともいうべき個性的な企画が実現するようになってきた。
開館20周年の一昨年には、鳥海青児や工藤甲人、山本直彰、内田あぐりなど館蔵品を中心に、地元の層の厚みを紹介した。地域の信頼を集め、寄贈や寄託の質に恵まれてきた結果である。夏以降には、三瀬夏之介展や藤山貴司展を予定。個展では特に、出品作のレベルをどこまで高められるかに心を砕く。「その作家の最高の姿を見せたいですから」。
「新美術新聞」2013年5月21日号(第1312号)1面より
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