感じること考えること
山本豊津(東京画廊社長)
「美術と教育を考える会」の第2回シンポジウムを先頃終えました。この企画は、ギンザギャラリーズ(参加ギャラリー40軒)の有志が銀座の街の催事として全銀座会(銀座の町内会)の後援を受け9年前に始めた「画廊の夜会」から生まれました。この会の発足に至る経緯は、ギャラリーツアーの一貫として銀座柳画廊の野呂洋子さんが泰明小学校(中央区銀座五丁目)の生徒たちを対象としたツアーや一日画廊体験を実施して先生方と交流を深めたことが始まりです。
さて、社会の高齢化が進み、交通の便のよい美術館などは入場者数が増えています。しかし義務教育課程では美術など芸術に親しむ時間が減り、しかも専門の先生がおらず、授業を担当する先生はどのように指導すればよいか迷っている、と聞きました。
感性が柔らかい子供の時に、感じることが大切な芸術の体験はその後の人生を豊かにします。残念ながら高齢になってから体験しても遅いのです。
第1回のシンポジウムでは創造力が議題となりました。創造力は管理がいきわたる分業社会では育まれにくくなっています。情報社会と言われていますが、情報を得る手段が単純になり、一人ひとりがもつ情報も差異がなくなっています。創造力を支えているのは個性です。創造力は固有な「感じること」と「考えること」から生まれます。
まず「感じること」を考えると、「感じること」は五感を司る身体で受容します。芸術は五感のいずれかを刺激して感性豊かな身体を実現させます。例えば絵画における色を思い浮かべて下さい。微細な色の違いを感じれば、聴覚が刺激される音にも色を感じます。また色は味覚にも影響して、「おいしそうな絵画」を描くように料理を創作したくなります。
次に「考えること」です。「考えること」は考えるための基盤が不可欠です。子供は経験が僅かですが身体的反応が柔軟で、全ての経験を吸収して積み重ね、それを基盤として考えることを始めます。さらに読み書きを習得すると、自身の体験を越え人類の経験をも基盤に加えることができます。「考えること」は「感じること」と共に創造力を豊かにする重要な条件です。
芸術の歴史は人類がその時々に美しいと感じたことの軌跡です。今、私たちが美しいと感じることは、反応ではなく学習の結果だと考えられます。教育の本義が社会を維持させる基盤作りとそれを習得する技術を教えることだとすると、芸術は人々に固有な感性と独創的な思考を有する、独立した存在であることを知らしめる役割を担っています。
第2回のシンポジウムで泰明小学校の高村弘志先生が報告した美術の授業内容と生徒の制作物は興味深いものでした。生徒の個性を見事に掘り起こし、生徒とのコミュニケーションがインタラクティブに成立しています。
大人が子供たちにできることは、人類が美しいと感じ、まだ残されしものを見せることだと思います。美しいことを感じ考えなければ生まれた甲斐はありません。
「新美術新聞」2013年8月21日号(第1320号)2面より