美術界の主な出来事(7月~12月)
(※)・・・各出来事に関する記事へのリンク
7月
第21代文化庁長官に青柳正規氏(※) / 重要無形文化財保持者(人間国宝)に前田昭博、山下義人の各氏ら(※) / 第8回西洋美術振興財団賞に保坂健二朗氏、陣岡めぐみ氏、公益財団法人ポーラ美術財団(※)
8月
独立行政法人国立美術館理事長および国立西洋美術館館長に馬渕明子氏(※) / 第12回小林秀雄賞に山口晃氏 / あいちトリエンナーレ2013開催、79日間で約63万人が来場
9月
第25回高松宮殿下記念世界文化賞にミケランジェロ・ピストレット氏、アントニー・ゴームリー氏ら(※) / 日産アートアワード2013、グランプリに宮永愛子氏(※) / 草間彌生氏、安部首相を表敬訪問(※)
10月
文化勲章に髙木聖鶴氏、文化功労者に上村淳之氏、槇文彦氏ら(※) / 第10回小磯良平大賞展、大賞に岩間敬悟氏(※) / 東京藝術大学「台湾・日本芸術文化交流事業」(※) / シンポジウム「文化省の創設を考える」開催(※) / 神戸ビエンナーレ2013開催 / 箱根・小涌谷に岡田美術館開館(※) / 群馬県前橋市に「アーツ前橋」開館(※) / 佐賀大学美術館開館
11月
第1回ホキ美術館大賞展、大賞に山本誠氏(※) / 瀬戸内国際芸術祭2013が閉幕、108日間で約107万人が来場
12月
「和食 日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録 / シェル美術賞展2013、大賞に武藤浩一氏(※) / 建築×アート「16th DOMANI・明日展」開催(※)
美術関係者アンケート(2)
2013年を振り返り、作家、美術評論家、美術館館長、美術館学芸員等の皆様にアンケートを実施。38名からご回答をいただきました。※会場名は初出のみ
【アンケートについて】
回答者(肩書き) ※敬称略・各項目で50音順
2013年、印象に残った展覧会 (展覧会名は適宜省略)
◆・・・美術館・博物館 ◇・・・画廊・百貨店
✍・・・美術界において印象に残った出来事
宝木 範義 (美術評論家)
◆①島田章三と島田鮎子展 (メナード美術館) ②赤堀尚展 (佐野美術館)
◇①池田カオル乾漆展 (日動画廊) ②鞍掛徳磨「止まる人」展 (キッド・アイラック・ホール)
✍オリンピックの東京開催決定に沸く一方で、有意義な美術館活動と優れた展覧会の開催に対する支援が削減され、現代日本の文化に見る美術の意義と役割が、今後さらに落ち込んで活力を失うようなことがあってはならないと危惧する。
瀧 悌三 (美術評論家)
◆①光悦 桃山の古典 (五島美術館) ②カイユボット展
◇①西房浩二展 (日動画廊) ②李暁剛展 (ギャラリー銀座アルトン)
✍日頃団体展を無視し、もう団体展など報道価値が無いみたいに言って、大新聞の団体無視の風潮を作ったジャーナリズムの主力紙が急に日展の非を激しく言い始めた事。
武田 厚 (美術評論家)
◆①フランシス・ベーコン展 ②ターナー展
✍社会的にみた出来事で印象に残るものもあったが関心はない。むしろ私自身にとっての出来事として挙げれば「ベーコン展」での思わぬ感動である。大げさに言えば、ホンモノの芸術というものの純粋な凄さに襲われ、久々に胸が高鳴り、目が洗われた。
立島 惠 (佐藤美術館学芸部長)
◆①ミニマル | ポストミニマル 1970年代以降の絵画と彫刻 (宇都宮美術館) ②フランシス・アップリチャード展 (丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)
◇①BIRTH 結城泰介+箕輪千絵子+藤田典子展「点描と刻線から始まる、ストーリー。」 (不忍画廊) ②Art to Heart Ⅲ (Gallery 80)
✍企業のCSR事業の中でアートに関する事が目立ってきたように思います。それから山梨学院大学で学部横断型副専攻としてアートマネジメントプログラムが開設されたことも注目できると思いました。
谷 新 (宇都宮美術館館長)
◆①若冲が来てくれました プライスコレクション 江戸絵画の美と生命 (福島県立美術館) ②あなたの肖像 工藤哲巳回顧展
◇①名和晃平「Foam」 (あいちトリエンナーレ2013) ②物質と彫刻 近代のアポリアと形見なるもの (東京藝術大学大学美術館陳列館)
✍1. 国の行政改革推進に伴う美術館の社会的存在意義の減退についての危惧。 2. 「4K」など高精度画像による展覧会のヴィジュアル戦略。「京都展」(東博)、「ミケランジェロ展」(西洋美術館)、「興福寺仏頭展」(藝大大学美術館)などで今秋、一斉に見られた。
佃 堅輔 (美術評論家)
◆①フランシス・ベーコン展 ②ターナー展
✍いまさらと思える日展問題。新聞記事を読み、我が国の文化レベルについて考えざるを得ません。正常化を期待します。一方、美術館における好企画。美術界への大きな刺激剤と言えます。
土屋 誠一(美術批評家、沖縄県立芸術大学講師)
◆①種差 よみがえれ 浜の記憶 (青森県立美術館) ②会田誠展 天才でごめんなさい
◇①石田尚志「燃える椅子」 (タカ・イシイギャラリー) ②未来の体温 after AZUMAYA (ARATANIURANO・山本現代)
✍取り上げるまでにはいたらなかったものの、美術館規模ではなく、小規模な自生的な展覧会に可能性を見出せたような気がする。ソーシャル時代に美術も応答し始めたということだろう。国際展や、ツーリズム志向の大規模展もいいが、そのような「大きな祭り」ではなく、自生的な「小さな祭り」が同時多発的に起こることを今後も期待したい。
外舘 和子 (美術評論家、美術史家)
◆①黒田辰秋・田中信行「漆という力」 (豊田市美術館)②栗本夏樹 漆造形展 いのちの再生 (伊丹市立工芸センター)
◇①人間国宝四人展 (英国ファイン・アート・ソサイエティ) ②みのり fruitful 笹井史恵漆芸展 (日本橋髙島屋)
✍漆芸の中堅~若手作家の極めて精力的な発表が目立った。またロンドンの老舗美術画廊で初めて日本の現役・人間国宝の仕事を紹介。日本の工芸を育成する「制度」が注目されるとともに、アートとしての伝統工芸に対する英国人の視線が印象的であった。
中野 中 (美術評論家)
◆①夏目漱石の美術世界展 (東京藝術大学大学美術館) ②ターナー展
◇①桜井寛展 (日本橋髙島屋) ②「象の内・外」展 (ギャラリー絵夢)
✍日展の審査・入選配分のありようへの疑義が朝日新聞1面トップで華々しく報じられて1カ月。当事者は「何で今さら?」、関係ジャーナリズムは「から騒ぎで終わるんじゃない?」とまるで危機感が無い。危機感の無さこそが危機的状況だ。
野地 耕一郎 (泉屋博古館分館学芸課長)
◆①縁起もの 版画と絵画で楽しむ吉祥図像展 (町田市立国際版画美術館) ②特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」
◇①4の扉 境界を超えて (東京都美術館) ②大森悟展 (ギャラリー58)
✍1. 町田市国際版画美術館の「縁起もの」展は、身近な吉祥図像の起源や意味を丹念に研究した労作。池大雅などの出品画も質高く見ごたえ十分。2. 4人の女性現代作家によるグループ展「4の扉」は、絵画や彫刻の境界を超えて響き合った世界観に圧倒された。
馬場 駿吉 (名古屋ボストン美術館館長)
◆①加納光於「色身 未だ視ぬ波頭よ 2013」 (神奈川県立近代美術館鎌倉) ②藤松博展 (松本市美術館)
◇①柳澤紀子展 (養清堂画廊) ②楢橋朝子展 (中京大学Cスクエア)
✍あいちトリエンナーレ2013は東日本大震災へのレクイエム的な影を負いつつも、芸術が持つ創造への渇望が蘇りの方位へと転じ始めているのを感じさせる多くの作品に出会うことが出来た。五十嵐太郎芸術監督とスタッフの努力に感謝。
半田 昌之 (公益財団法人日本博物館協会専務理事)
◆①戦争/美術1940-1950 モダニズムの連鎖と変容 (神奈川県立近代美術館葉山) ②浮世絵の美 平木コレクション名品展 (愛媛県美術館)
✍例年通り大規模な展覧会が目を惹くなかで、学芸員の調査研究の成果を発表する、内容重視の展覧会のがんばりも目に付いた。美術品の国家補償制度の導入から3年目を迎え、本来の趣旨に叶う方向での見直しを期待したい。
土方 明司 (平塚市美術館館長代理)
◆①松田正平展 (神奈川県立近代美術館鎌倉) ②エル・グレコ展 (東京都美術館)
◇①宮永愛子展「house」 (ミヅマアートギャラリー) ②鈴木理策「アトリエのセザンヌ」 (ギャラリー小柳)
✍各地方の芸術祭の流行。展覧会のイベント化の功罪。美術館という機関の将来の可能性の可非を思わざるをえない。
福永 治 (広島市現代美術館館長)
◆①あいちトリエンナーレ2013 (愛知県美術館ほか) ②雨引の里と彫刻2013 (茨城県桜川市)
◇①青木野枝「ふりそそぐもの―有隣荘 (大原美術館) ②松本陽子展 (ヒノギャラリー)
✍美術界にアベノミクス効果は見えず、総じて動きの少ない年だったように思う。しかしアンケートで挙げた以外にも、「コルビュジエと20世紀美術」(西美)、「カイユボット」(ブリヂストン)、「海軍記録画」(大和ミュージアム)など、収穫は多かった。
保坂 健二朗 (東京国立近代美術館主任研究員)
◆①世界遺産登録記念 富士山の絵画 (静岡県立美術館)②マンハッタンの太陽 光学芸術から熱学芸術への拡張 18世紀から21世紀の“太陽画”の系譜 (栃木県立美術館)
◇①片山真妃「If spring comes / 春になったら」(XYZ collective) ②アイ・チョー・クリスティン「無数の‘ペースト’」(オオタファインアーツ)
✍1. 五十嵐太郎氏が新聞記事に対する異議申し立てをTwitterを使って効果的に行った。2. シンガポール・ビエンナーレが基本的に東南アジアのアートに特化した。3. 韓国国立現代美術館のソウル館がオープンした。
光田 ゆり (美術評論家)
◆①秘密の湖 浜口陽三・池内晶子・福田尚代・三宅砂織 (ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション) ②アジアをつなぐ 境界を生きる女たち1984‐2012 (栃木県立美術館)
◇①「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう」 vol.9 小林正人+杉戸洋 (gallery αM) ②椿会展2013 初心 (資生堂ギャラリー)
✍1950年代~70年代の日本の前衛美術の検証が各地美術館で相ついだ。藤松博、工藤哲巳、ハイレッド・センター、今も現役の田部光子展など。継続して豊かな蓄積が培われることを願うと同時に近代洋画の展覧会が少ないことに気づかされる。
南嶌 宏 (女子美術大学教授)
◆①フランシス・ベーコン展 ②REAL DMZ PROJECT 2013: From the North (Artsonje center, Seoul) ③新具象彫刻展を出発点とする東京造形大学出身者展 (東京造形大学附属美術館)
✍近視的な美術との関わりは実に多くの富を見落とさせ、偏見を助長させ、独りよがりの自己主張だけをはびこらせる。先鋭的な現代美術から日展まで、「人間の表現」として見直す、巨視的な感性が求められよう。
安井 収蔵 (しもだて美術館館長)
◆①美術の祭典 東京展 (東京都美術館)
✍日展、帝国ホテルの祝賀会。本来、主人が客を招き祝うものである。藝術院会員である70代の日展常務理事が金屏風前、主賓席に座り、80代の常務理事が立ち姿で「客を立たせている。何か間違えているのではないか」と常識の無さを嘆く。
山﨑 妙子 (山種美術館館長)
◆①エル・グレコ展 ②竹内栖鳳展
◇①山口晃展 (そごう美術館)
✍グレコ展ではスペインに行っても中々観られない様な作品も観る事ができた。グレコの全貌を知り、感動した。栖鳳展ではこれまで行方すら分からなかった新発見の作品が出品されていて、学芸員の熱意を感じた。両方共、勉強になった。
ワシオ・トシヒコ (美術評論家)
◆①ジョセフ・クーデルカ展 (東京国立近代美術館) ②アンドレアス・グルスキー展
◇①浅見哲一30年の歩み展 (金井画廊、ドゥ画廊) ②十河雅典展 (ステップスギャラリー)
✍3・11以後、列島ニッポン丸はアジアの海原で、再び大きく右へ旋回しようとしている。美術界もこれに倣うしかないのだろうか。ペシミズムとニヒリズムが蔓延する兆候あり。私の”秩序恐怖症“が、いよいよ募るばかりだ。
「新美術新聞」2013年12月11・21日号(第1331号)5・8面より
【関連記事】 入場者数レポート 2013年後半の主な展覧会の話題から