ジャパンソサエティの現在
ジャパン・ソサエティ・ギャラリーの新館長に手塚美和子が就任して1年がすぎた。まだ前任者の手配した企画をこなしている状態だが、展覧会の枠外でも現代美術の新しい企画を意欲的に考えている。
まず、ニューヨーク在住の若手日本人作家との交流を図るために、4月から「アーティスト・ポットラック」という月例ミーティングを始めた。ポットラックというのは、お客が料理を持ちよるアメリカのホームパーティ。ジャパン・ソサエティでは主催側が飲み物を用意し、招待客がそれぞれにスナックなどを持ち寄る。規模は30人程度。チーズケーキやポップコーン、時には自慢の手料理などを囲んで和気藹々とした雰囲気で気分を盛り上げてから、毎回選ばれた作家が英語で発表する。
これまでに発表したのは、大山エンリコ・イサム、木村太陽、堀崎剛志、three、小泉美和、フランシス真悟。アメリカでは、自分の作品について臨機応変に人前で語ることが、アーティストの仕事の1つになっている。だから、この企画は若い作家にとってはよい経験となる。とはいえ、これまでに発表した作家は中堅級が多く、「持ち時間10分、その後に質疑応答」というフォーマットに各自各様に対応。親しくしている作家同士でも、あらためて話を聞く機会はそれほどなく、新しい発見も多いようで、発表後の会話も弾んでいる。
この中でthreeというのは、福島で活動する3人のユニット。今年の8月に手塚が始めたサマー・レジデンスの第1回参加者だ。同館は夏季閉鎖するので、遊休スペースを有効利用するアイディア。1ヶ月の短期間だが、オープンスタジオの日を設けたり、批評家や報道関係者を招待して広報も積極的だ。プロジェクトは《three is a magic number 7》。素材は日本製とアメリカ製のアニメフィギュア総計555点。それぞれを溶かして小さい角柱に仕立てて展示。作品に添えられたQRコードを使って、オリジナルのフィギュアの写真にリンクすることが出来る(詳細はwww.three-studio.com)。アメリカ製フィギュアの買出しにでかけるうちに―これがアーティストの現地調査になるわけだが―日米アニメ文化の違いに愕然と気付くなど、エピソードには事欠かない。
現在展観中の「再生―森万里子 近年の作品」展は、前任者が当初企画していた森のドローイング展を大幅にグレードアップした力作だ。展示内容に厚みを持たせ、1週間限定で屋外にビデオ映写し、関連プログラムに特別パフォーマンスを演出するなど、作家と呼吸を合わせたコラボ。以前にアジア・ソサエティで奈良美智展を企画した際にも見せたキュレーターとしての手腕が光っている。ただ、今回の森展では空間がピリッとしていない印象が一部あった。制限の少なくない同館のスペースをいかに生かして現代美術をよりよく見せていくか。これが今後の課題の1つになるだろう。
(富井玲子)
「新美術新聞」2013年12月1日号(第1330号)3面より