キュレーター二題
1月31日付NYタイムズのアート欄を見てびっくりした(http://goo.gl/gKzyba)。メトロポリタン美術館の「江戸絵画の奇跡―ファインバーグ・コレクション展」を紹介するホランド・コッターの展評に、同館日本部門キュレーターのジョン・カーペンターをベタ褒めする言葉が冒頭から並んでいたからだ(9月7日まで)。
要約するなら—2011年に就任以来、戦略的に作品を借りてきて、、分かりやすいテーマを使いながら、収蔵品展示を大刷新した。
なるほど、鳥の図像に集中した昨年春の収蔵品展示は非常に評価が高かったし、現代美術の名和晃平の作品を購入して琳派の展観に注入するなど賛否両論はあるものの話題にも事欠かない。
もともとはロンドンのセインズベリー日本芸術研究所で教えていた学究だが美術館に転身。モノを使っての教育に新境地を見出している。
ファインバーグ・コレクション展は日本にもすでに巡回しているが、メトロポリタンの展示では、展示ケースの〈間隙〉をうまく使い館蔵品を補填して内容を拡充している。たとえば、中村芳中の「六歌仙図」の掛軸には、同じく芳中の「光琳画譜」を添えて琳派の系譜のつながりを示し、浮世絵のセクションでは館蔵の木版絵本を展示するだけではなく、画中にでてくる布団のような夜着の実物を引っ張り出してくる。
こうしたセンスは、ともすれば粛々としたムードのただよう日本美術の展示に確かに〈活を入れ〉ている。
一方、長くロサンゼルス現代美術館の主任キュレーターをしていたポール・シンメルが世界的画廊のハウザー&ワースに合流して、商売の世界に転身したというのは昨年5月のニュースだった。そのシンメルが企画した「リ・ビュウ―オナシュ・コレクション」がチェルシーの同画廊でオープンした(4月12日まで)。
ラインハルト・オナシュはドイツの画商でコレクター。いち早く1973年にはソーホーにスペースを持ち、リヒターの個展で画廊を立ち上げた。ベルリンとNYの現代美術の橋渡し的役割をした人物だけに、今回はニューヨークの50、60年代美術の優品を展観している。例によって美術館級展覧会で、同展からの作品販売はしないとのこと。
シンメル本人が解説トークをするということで報道内覧会には多数の報道関係者が詰めかけた。
カーペンターの解説トークも熱のこもった流暢なものだったが(しかも日本の報道相手だったので全部日本語)、さすがにシンメルもキュレーターとしての研究歴も作家との交流も年季が入っているから流れるように話はうまい。
1955年のニューマンの大作《ウリエル》に始まりリチャード・セラの1983年の《Do It》まで粒揃いの作品が並ぶ。
生前交流のあったディーター・ロスとリチャード・ハミルトンを組み合わせた部屋では、その背景を喜々として説明していたが、こういう人物がどういう風に商売の世界を泳いでいくのか、非常に興味深い。
(富井玲子)
「新美術新聞」2014年3月1日号(第1337号)3面より