【寄稿】文化庁新進芸術家海外研修を終えて(大成哲)

2014年03月27日 09:33 カテゴリ:エッセイ

 

「chairs」 彫刻/インスタレーション 56×81×44cm×3

「chairs」 彫刻/インスタレーション 56×81×44cm×3

 

私は平成22年度の文化庁新進芸術家海外研修制度、3年派遣の研修を先月終えて帰国した。様々な方面から応援してくださった皆様のおかげでこの研修を受けることができた。幸運なことに研修先のチェコ共和国でも本当に様々な方に支えられ、充分すぎるほどの研修環境を与えていただいき、無事に日本へ帰国することができた。

1年間や2年間の研修もあるが私が選択したのは3年。単純に1年の3倍自分が良くなると思ったからである。3年間とは長く、研修というより人生の一部であり、作家生活の中でも最も重要とも思える3年間を制作と研究に没頭することができた。確実に自身のターニングポイントとなったと感じている。

 

文化庁からの正式な芸術家としての研修員でいられることは、学生時代から何となくあった芸術をしている引け目などはもう持てなかった。なぜなら以前の自分のように、作家を続けられない理由を時間やお金のせいにすることもできなくなったからである。残るは一番隠したい自分の優柔不断さと自信の無さだけが浮き彫りになり、やるしかないことを決意できた。

また、日本に支援していただいていることに対しての責任感と、日本代表という肩書きとは裏腹に、欧州ではほとんどの人が文化庁も藝大も大成哲も知らないことに、ハングリー精神が生まれた。

 

研修中はそのような気持ちの部分と同時に、実質的に手に入れたものも沢山あった。毎日24時間アーティストのスイッチがオンのままであることは、それはもう自分自身がアートの中にいる、むしろアートである、と思う程のめり込んでいられた。メモ帳とペンだけあれば一週間ずっと家から一歩も出ずに、脳内の深い海に潜り続けることも出来た。アトリエでは時間の制約もなく、身体が悲鳴をあげるまで制作ができた。これ以上に裕福な時間は今後はないだろう。

 

「日本」「日本人」という言葉を外国では日本にいた時より何万回も多く言い、何万回も多く考えた。これを言葉で説明するのではなく、作品や自己の作家スタイルに出てくることが一番望むところである。

世界で通用する語学力、知識や教養、マナーやモラル、造形力や思考力は、自分が繊細なのか弱いのか、違うのか低いのかなどを考えられないほどその比較基準や次元は様々で、世界は広く、各人の世界観はもっと様々であるあることがわかった。

 

学生の頃によく同級生と話した”プロの条件”。ライセンスがない芸術界には特に条件などない。社会はわかり易い結果で全てを納得するし、作品の価値は数値で計れるものではない。評価は絶対的ではない。

 

”芸術家”は”芸術をしている人”というわけではない。ただ「芸術家であることは芸術の中に常にいること」が重要だと意識するようになった。

 

将来の日本と海外のアートを比較予想したり、自分がどこに住むのかなど考えたりもした。芸術を比較することはその場所の経済、歴史、文化、そして各国と地域全てが関係している。その本当にほんの一部が「現代のアート」であり、私がそこを論述することはとても困難である。私には未来のことはわからない。

「どこに住むかではなく、誰に会うか。誰に会うかではなく、その人をどう視るか。どう視るかではなく、自分がどうあるか。」これが重要である以上は自分は完全に自由であると気づいた。

 

彫刻家×日本人×大成哲の組み合わせがこれから益々楽しくなるだろう。

大成哲個展DM

大成哲個展DM

 

◇大成哲略歴

彫刻家。1980年東京都生まれ。2004年日本大学芸術学部美術学科卒業(彫刻)。05年チェコ共和国政府奨学金によりプラハ美術アカデミー(彫刻)とプラハ工芸美術大学(環境アート)に各1年在籍。08年東京藝術大学大学院専攻修了(造形学美術教育)。10年ポーラ美術振興財団在外研修員、11年文化庁新進芸術家海外研修員としてチェコに合せて4年滞在。ガラス、石、木などを素材に彫刻、インスタレーションを制作、個展・グループ展を通じて国内外で発表を続ける。12年VOCA展2012佳作賞。(公式サイト)

 

◇展覧会予定

★ポーラミュージアムアネックス展2014―光輝と陰影

【会期】 3月14日(金)~4月6日(日)

【会場】 ポーラミュージアムアネックス (東京都中央区銀座1-7-7ポーラ銀座ビル3階)☎03-5777-8600

【休廊】無休

【開廊時間】 11:00~20:00

【料金】無料

 

★大成哲展―Tets Ohnari ∞ Egon Schiele

【会期】 4月7日(月)~5月7日(水)

【会場】 第一生命南ギャラリー (東京都千代田区有楽町1-13-1 DNタワー21第一生命本館1階) ☎050-3780-6950

【休廊】 土・日曜・祝日

【開廊時間】 12:00~17:00

【料金】 無料

 

【関連記事】 ポーラ ミュージアム アネックス展2014

「新美術新聞」2014年3月21日号(第1339号)

 


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