神と仏のすがたを求めて
齋藤龍一(大阪市立美術館主任学芸員)
紀伊半島―それは本州最南端、和歌山・奈良・三重の三県にまたがる日本最大の半島。中央には標高1000mをこえる山々が縦横に連なって紀伊山地を形成し、太平洋から吹き付ける激しい風と日本有数の降水量という厳しい環境のなかで豊かな自然が育くまれた。そこでは古代より「聖なる山」への様々な信仰が生まれ、今に息づいている。その核となるのが、役行者を祖とする修験道の一大拠点「吉野・大峯」、全国に広がる熊野信仰の中心「熊野三山」、真言密教の根本道場「高野山」である。
三つの霊場とこれらを巡る「参詣道」は、2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」としてユネスコ世界文化遺産に登録された。これら三霊場は参詣道を通じて有機的な繋がりを保ちつつ、それぞれ独自の文化圏を形成しているが、三霊場共に外来の宗教である仏教、そして日本固有の宗教である神道、修験道が併存あるいは融合し現在に至っている。
近代、明治における「神仏判然」つまり神と仏を明確に区分する方針の下で、神仏をまつる空間あるいは信仰形態は大きく変化したといえる。しかし三霊場では、神仏を分け隔てなく奉り崇敬する「神と仏のありかた」が、今もなお伝えられ護られている。
世界遺産登録10周年を記念して開催する本展では、「三霊場にどのような神仏が祀られているか、分かりやすく伝えること」この点を基本テーマとして構成している。紀伊半島は広くその神仏は数知れず、また三霊場の歴史と信仰は複雑であり、全容を一つの展覧会で示すのはきわめて困難と考えたからである。そこでまず、どの霊場にどの神仏が祀られるのか明確にするため、「吉野・大峯」、「熊野三山」、「高野山」の順不同な三部構成とした。
具体的には、「吉野・大峯」の章は修験道の代表的尊格である役行者と蔵王権現を中心としており、「熊野三山」の章は熊野信仰に基づく主要な神仏に限定し、「高野山」の章は高野山開創に関わる丹生高野明神に焦点をあてた内容である。その上で、出品作品を神仏のすがたが表された絵画・彫刻・工芸に絞っており、作品総数百五十件のうち、神仏のすがたや社寺の景観が表されない作品は国宝・藤原道長経筒(奈良・金峯神社)のみである。
このように本展は、たんに神仏習合という言葉では語り尽くすことができない、神と仏がより近しい存在であった江戸時代以前の信仰空間の再現を目指しながら、三霊場を中心として篤い信仰をあつめる「神と仏」のすがたを一堂に展観するものである。
【会期】 4月8日(火)~6月1日(日)
【会場】 大阪市立美術館 (大阪市天王寺区茶臼山町1-82 天王寺公園内) ☎06-4301-7285
【休館】 月曜ただし5月5日開館、5月7日(水)休館
【開館時間】 9:30~17:00 (入館は閉館の30分前まで)
【料金】 一般1400円(1200円) 高大生1000円(800円) ()内は前売り・団体
【関連リンク】 大阪市立美術館
◎講演会情報
4月26日(土)「吉野・大峯の神仏」 講師:田中利典氏(金峯山修験本宗宗務総長)
5月17日(土)「高野山の神仏」 講師:山口文章氏(金剛峯寺宗務総長公室長)
5月24日(土)「紀伊山地の神仏をめぐって」 講師:齋藤龍一氏(大阪市立美術館主任学芸員)
【会場】 大阪市立美術館1F 講演会室
【時間】 13:30~15:00
【定員】 各150名(先着順、当日13時より整理券を配布)
※聴講無料、ただし特別展の観覧券が必要。
〈招待券プレゼント〉
同展の招待券を、5組10名様にプレゼントいたします。
メールのタイトルに「山の神仏展 招待券プレゼント」とご記入の上、①郵便番号②住所③氏名④年齢⑤職業⑥当サイトへのご意見 を以下のメールアドレスまでお送りください。
present@art-news.co.jp
締切 4月27日(日)必着
「新美術新聞」2014年4月1日号(第1340号)1面より