インドネシアの発展
最近、インドネシアとの付き合いが深まっている。インドネシアには、近年コレクターが倍増している。ということはマーケットも活況を呈しているわけで、その結果、新しいアーティストもキュレーターも増えている。日本ではちょっと考えられない変化が起こり始めている。
昨年11月に何人かの人たちとジョクジャカルタ、ジャカルタを訪ねたのだが特に若いコレクターのグループの台頭が印象深かった。
30歳代の起業家を中心に20人くらいがあつまっていて、作品やギャラリーについての情報を交換したり、互いに訪問したり、大変活発である。そしてインドネシアの現代美術を世界に発信したいという野望(大志)と戦略をもって、様々な活動をしている。リーダー格の青年実業家は、日本製のバイクの輸入代理店を広域に経営しているそうだ。
人口が若く、大きいということは何でも良く売れるということだろう。そこで起業家が成長し、その中からアートのコレクターが登場してくる。これはどこでもありうる事で自然な流れのようにも思えるが、日本では今や例が少ない。これはなぜだろうか。
何人かコレクターのコレクションを訪ね歩いたが、作品の一部が自宅の敷地に建っている美術館に展示されているケースが目立った。国立美術館は、メインテナンスも悪く、湿度・温度管理もどれだけ出来ているかわからないが、コレクターの美術館は自宅の延長として良く管理されている。作品も新しい物がどんどん紹介される。だからインドネシアで現代アートを見ると言うことは、コレクターの家の庭に立つ美術館を見て歩くことを意味しているとさえいえる。
ところでフィリピンはそれに比べると、まだマーケットの勢いはない。全体に美術の価格も低い。しかし、ポテンシャルはあるだろう。なぜなら、コレクターは少なくないからだ。しかも経済指標は、インドネシアの後を追いかけている。だから十分発展する可能性はあるはずだ。もちろん現代美術のコレクターが居るアジアの国には、台湾、韓国、香港、シンガポールなどがある。中国は別格でコレクターが多い。この後、さらにマレーシア、タイなど美術市場拡大が続くだろう。
こうした中で、日本はどういうポジションを取るのだろうか。自国のアートが支えられないのでは、恥ずかしい。しかしそのためには,ギャラリー、美術館、美術ジャーナリズム、アーティストなど、全てのステークホルダーにどのように資金が循環するのか、というエコシステム全体を育てないと、アートは発展しないだろう。政府(文化庁)も最近はそうした問題にどう直面していくのか考え始めているようだが、これは文化立国のためにはさけられない課題だと思う。
いずれにしろアジアの状況を見ることは日本について考える事につながる。日本が進んでいる面と、日本が改善しなければならない面と、反面教師のように浮かび上がってくる。インドネシアの発展を観察しつつ我が国のあり方について考えていきたい。
(森美術館館長)
「新美術新聞」2014年8月21日(第1352)号3面より
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