吉田美統—錦山窯三代目・釉裏金彩の第一人者

2015年02月10日 18:15 カテゴリ:北陸×ART×KOGEI

 
北陸の工芸
 
陶芸 吉田美統
 
 
小松市には19世紀になって発見された良質な陶石の産地があり、九谷焼作家の創作活動を支えてきた。現在では、いろいろな石を調合して作る作家や、焼成も薪ではなく電気やガスの窯が主流になりつつある。一見味気ないような近代化も、均一の作品を作り上げていくうえでは貴重な変化であり、進化した道具を使うからこそ可能になる表現もあり、伝統表現の幅を広げる技法が生まれることもある。
 
釉裏金彩の第一人者として重要無形文化財保持者に認定されている吉田は、小松市の九谷焼窯元に生まれ育った。1951年に錦山窯の三代目として家業を継承し、伝統的な上絵付の技術を磨き、特に九谷焼独特の金彩を得意とした。しかし、吉田は伝統の技術を継承しながらも、常に思っていた。
 
「伝統の上になにか新しい現代的な表現を積み重ねなければならない」
 
その強い思いは、一つの作品との出合いで劇的に具体化していく。その作品とは加藤土師萌の遺作展に出品されていた「緑地釉裏金彩飾壺」で、釉裏金彩の技法を使い、装飾は箔の形をそのまま活かした抽象表現だった。
 
「箔で具象をやりたかった。そのヒントになりました」
 
それ以来、釉裏金彩の研究に取り組んだ。箔での具象表現には、まず金箔を思い通りの形に切り取らなければならない。箔が薄いと思うような形にならないが、厚すぎると粋でなくなる。幸い石川は箔の産地であり、箔の厚みを自由に発注できる。試行錯誤の末、金箔を紙で挟み手術用のハサミで切り取ることにたどり着いた。思いもよらぬ現代の医療器具が、伝統の九谷の表現の幅を広げたのである。
 
その後も新たな創意を取り入れて、吉田独自の釉裏金彩を確立していった。
 
重要無形文化財保持者の吉田にとって伝統とは、「今の時代に合った意匠、技法、素材を創造し、歴史の上に積み重ねること」である。近年では釉裏金彩の主流である「緑」だけではなく、長年釉裏金彩には不向きとされていた赤や紫といった色の作品にも挑戦している。積み重ねることをやめない。
 
 
【個展情報】
◎HEART OF GOLD 錦山窯の仕事
2015/2/20(金)〜2/22(日) 代官山ヒルサイドテラスF棟 ヒルサイドフォーラム
11:00〜20:30(最終日は18:30)
◎人間国宝 釉裏金彩 吉田美統 作陶展
2015/3/4(水)〜3/10(月) 日本橋三越本店 本館6階 美術特選画廊

 
 
 
【関連リンク】
⇒代表作家インタビュー 大樋年朗(陶芸)
⇒代表作家インタビュー 武腰敏昭(陶芸)
⇒代表作家インタビュー 三谷吾一(漆芸)
⇒代表作家インタビュー 小森邦衞(漆芸)
 

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