端正な風情に滋味溢れる趣を内包する小森の漆芸作品は、細く薄く削った真竹を縦横に編み込む網代を成形し漆を塗り重ねた籃胎(らんたい)と、檜などの薄板を曲げて環状にし、漆を塗る曲輪(まげわ)を組み合わせる技法を主な特徴としている。
その籃胎と曲輪、または指物(重箱やお膳など角のある木地)といった技法の組み合わせには、竹と木の収縮率の違いを念頭に置くことや、継ぎ目が自然な流れとなるようになど熟練した匠の技が随所に施されている。どのような工程で完成に至るのかという制作の神秘も作品に大きな魅力として反映している。
漆芸の世界に入る前に4年間、和家具の修業を経験した小森は、かんなやのみなど刃物の扱いに慣れ、木の性質を目で見て判断することが出来る。伝統的な輪島塗は分業化され、木地作りから下塗り、研ぎ、中塗り、上塗り、加飾(蒔絵、沈金など)まで工程毎に職種が分かれるのに対し、小森は作品のほとんど全ての工程を自身の手で行なっている。
1965年20歳で、和家具職人を続けるには体力面に不安を覚え、地場産業の輪島塗に目を移し、沈金の樽見幸作に入門した。さらに「職人としてよりは漆芸家としてやっていきたい」と、68年輪島市立漆芸技術研修所(現石川県立輪島漆芸技術研修所)の2期生として沈金科(3年制)に入学、松田権六や前大峰に学ぶ。卒業後、新設の髹漆科(3年制)聴講生となり、曲輪を赤地友哉(あかじゆうさい)、籃胎を太田儔(ひとし)、乾漆を増村益城(ましき)等、当時最高峰の漆芸家から技術を学んだ。その後は研鑽を積み、日本伝統工芸展他にて受賞を重ね、自身の作風を高度に花開かせて、2006年重要無形文化財「髹漆(きゅうしつ)」保持者(人間国宝)に認定された。「髹漆」とは漆塗りにおける塗りの全ての工程を指す。
作品の足跡を辿ると、研修所時代から70年代始めまでの初期作品は、乾漆に沈金を施す作風であったが、その後は「沈金という加飾にこだわらなくとも自分の思いは表現できる」と、加飾を排し、籃胎と曲輪や指物を組み合わせる作品が主となった。形状も盤や器といった平面的なものから、喰籠(じきろう)や重箱など、より立体的なものへと変化した。朱や黒の漆で籃胎の文様を美しく浮かび上がらせながらフォルムは極めてシンプル、全体の質感、気品は高みに達した。今後は「今まで作ったことのないものにどうチャレンジしていくかを考えていきたい」という。
【関連リンク】
⇒代表作家インタビュー 大樋年朗(陶芸)
⇒代表作家インタビュー 吉田美統(陶芸)
⇒代表作家インタビュー 武腰敏昭(陶芸)
⇒代表作家インタビュー 三谷吾一(漆芸)