シンガポールで開催されたプルーデンシャル・アイ・アウォードという賞の審査と表彰式に行ってきた。この賞は、2008年にデヴィッドとセレネラ・チクリテッラという夫妻が創始したもので、プルーデンシャルplcという企業が主催している。アジアの若手、新進作家を表彰することをミッションに掲げ、これまで韓国、マレーシア、インドネシア、香港、授賞式が開催されてきた。彫刻、絵画、素描、写真、デジタルアート、インスタレーションという6つのジャンルでそれぞれ受賞者を選出する。さらには、アジアで重要な活動をしている組織、ジャーナリスト、ギャラリー、美術館、キュレーターなども顕彰される。
会場となったシンガポールのサイエンス・アンド・アート・ミュージアムに行って見ると、最終選考に残った各ジャンル3人の作家、合計18人の作品の展示が行われていた。また開催地シンガポールに敬意を払ってか、シンガポールの作家の展示も並行して行っており、審査員は最終選考をその展示を見た上で行うということになっていた。
会場を見て初めて最終選考に残った作家の顔ぶれを知ったが、知り合いが多かったのには驚いた。日本から勝ち残っていたのは、名和晃平、チームラボ、Chim↑Pomであった。また旧知のミツ・センや、シャーマン・オン、ドナ・オン、クリスティーナ・アイチョウなどがいづれも勝ち残って、最終選考の対象となっていた。
各ジャンルの受賞者を決めて、グランプリを6人の中から選ぶにあたって、議論が紛糾した。3時間以上に及ぶ議論の末にChim↑Pomが受賞した。審査員の何人かが、まだ国際的にそれほど知られていない若い作家、とんがった作家の受賞を支持したからだ。Chim↑Pomはまさに、外から見てそのような作家の代表格になりつつある。
授賞式は相当に大掛かりで、そのことでも驚かされた。基本的にアーティスト以外はタキシードである。カジノのすぐ脇にある劇場のステージで、アカデミー賞の授賞式のように、プレゼンターが賞を紹介し、発表者が封筒を開けて、受賞者の名前を読む。そして受賞者がステージにあがり、拍手を受けるというしかけである。
報道のテレビカメラはクレーンのようなアームで宙吊りされて、ステージを中継している。あまりにも大げさだという意見もあるだろうが、しかし、一般社会でマイナーな位置に置かれがちな現代美術、しかも若手作家たちに、多くの一般人の目を向けさせるという観点から見ると、必要な戦略ではないだろうか。
一方で、英国の企業、アート愛好家、そしてサーチのような大手のギャラリーが、今やアジアを無視できない時代であり、いち早くアジアの状況を把握し、自分たちのプレゼンスを示しておきたい、という意思の表れでもあるのかもしれない。もともと、現代美術は、国境を越える文化であり、言語である。こうした国境を越えた交流の振興はもっと盛んになるべきことではないだろうか。
グランプリをとったChim↑Pomは高額の賞金を授与されただけでなく、来年、ロンドンのサッチ・ギャラリーで個展が開催される予定である。
(森美術館館長)