今春開業した東京スカイツリー®の照明を手がけた。新進気鋭の照明デザイナーである。
2007年の夏、日建設計からコンペ参加の依頼を受けた。当時駆け出しの戸恒さんにとっては、まさに青天の霹靂。だが「まずは自分が見てみたいと思う照明を表現することを心がけた」という。
締切までの1週間、膨大な量の江戸に関する文献や版画にあたり、墨田=江戸の象徴というコンセプトを固めた。江戸っ子の心意気を表す淡いブルーの《粋》と、江戸文化に流れる洗練美をイメージした江戸紫の《雅》―和の色を基調にしたふたつのデザインで臨み、好評を得た。
今回の照明は、LEDのみを用いた省エネデザインとしても注目される。だが設計当時は、まだLEDの開発途中であった。「とにかく未来を信じて前に進むしかなかった」と振り返る。結果的に、LEDは繊細な色彩表現と調光を可能にした。開業後、毎晩交互にタワーを照らす《粋》と《雅》のやわらかな光に「癒される」という声が、多く寄せられている。
子どもの頃から星空の観察が好きだったという戸恒さん。東京大学工学部建築学科に進学し、照明デザイナーという職業に出合った。照明には人の心を豊かにするちからがあると信じる。「これからも照明デザインの既成概念を変えていきたい」と意気込みをみせた。東京都出身、37歳。
「新美術新聞」2012年7月11日号(第1285号)1面より
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