[画材考] 洋画家 株田昌彦

2016年02月20日 14:47 カテゴリ:コラム

 

乾性油の透明性と流動性

 

「待機」

 

「画家の数だけ、画用液の種類がある」大学生の頃ある先生から言われた言葉だ。また、ある知り合いの画家は「(その画家の恩師は)画用液の調合だけは教えてくれなかった」と語っていたことが脳裏に浮かぶ。油彩画を描く画家にとって画用液は表現の生命線ともいえる。

 

私は17世紀のオランダ絵画に興味を持って油彩画を描き始めた。レンブラントの闇から浮かび上がってくるような自画像、デ・ヘームの精緻な静物描写、ライスダールのドラマティクな雲の表現などに魅了された。その表現の根底にあるのは絵具の積層による圧倒的な密度を伴った描写にあると頭ではわかっているのだが、表現技術が追い付かず悶々としていた。光の当たった部分の滑らかな諧調、陰影部の質感が思うように表せなかった。

 

そんな中、正に17世紀オランダ絵画を研究し、注目を浴びていた青木敏郎氏の描画手順を紹介する書籍を読んで眼から鱗が落ちた。加筆用ワニスに乾性油を加え、ワニスを塗布した画面の粘性を調節すると記載されていた。早速試すと加筆する絵具と下層の絵具との調和が格段に変わった。それをきっかけに理想とする滑らかな絵具層による描写は、乾性油の透明性と流動性によるものであると自分の中で結論付けができた。

 

それ以来、描画には乾性油であるリンシードやスタンドリンシードを主体とした画用液を、テレピンで濃度調節しながら使用している。

 

もちろん混合比は秘密である。

.

株田 昌彦 (かぶた・まさひこ)

 

1976年 石川県生まれ

1997年 第51回二紀展(以後毎年、01、04年奨励賞、05年二紀賞、06年同人推挙、07年損保ジャパン美術財団奨励賞、10年宮永賞)

1999年 筑波大学芸術専門学群美術専攻洋画コース卒業

2001年 筑波大学大学院修士課程芸術研究科美術専攻 修了

2003年 第5回雪梁舎フィレンツェ賞展 優秀賞

2006年 筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科芸術学専攻 修了

 

現在 二紀会会員、宇都宮大学教育学部准教授

 

【主な出品予定】
「UNI展」2月26日~3月6日:ギャラリー絵夢(東京・新宿)

 


関連記事

その他の記事