フィリップ・ジョンソンの「ガラスの家」を見学してきた。24歳でニューヨークのMoMAの建築部門キュレーターに就任した近代建築の巨匠である。ガラスの家は自邸で1949年から55年にかけて建てられた。
マンハッタンから通勤電車でコネチカット州ニューカナーンまで1時間半ほど。駅から出ると、すぐ目の前にビジター・センターがある。広大な敷地ともどもアメリカのナショナル・トラストに寄贈され、ジョンソンが生前に収集した現代美術作品とともに一般公開されている(予約と詳細:theglasshouse.org)。
美術も建築も、現物を見なければわからない。私は長い間、ガラスの家に住むのは、どんな神経をした人物だろうと不思議に思っていた。何しろ、ワンルームタイプのフロアプランで、すべてが外から見えるだろうし、収納などはどうするのだろう、と。
ガイドの人に連れられてミニバンでジョンソンがデザインしたゲートに到着。松林の小道を抜けていくと左手に丘陵がひろがり、サイロのようなコンクリートの建造物が見える。これはジョンソンが「僧室」とニックネームをつけた書斎兼図書室。なるほど、仕事や考えごとはここでしたわけだ。
さらに歩いていくとドナルド・ジャッドのコンクリート製の野外彫刻(1971年)の向こうにガラスの家が見えてくる。
中に入れば機能的なキッチン、ダイニング・テーブル、応接コーナーに暖炉もあり、ベッドはクローゼット兼用の仕切りの向こう側に置いてある。暖炉を仕込んレンガ製円柱は、向こう側にまわるとトイレとシャワーで、全体をすっきりと見せる工夫が素晴らしい。
外からの丸見え感はいなめないが、外壁につけられた照明のおかげで夜間はガラスが鏡面となり、中のプライバシーは守られるという。さらに「ガラスの家」の斜め向かいには「レンガの家」があり、こちらは要塞のように開口部はない(裏側に丸窓がある)。こちらにもベッドルームがあり、さらにガスや電気はこちら側からガラスの家のほうに配管しているという。また炊事などはゲート近くのコロニアル様式のファームハウスでまかなっていたということで、ガラスの家の単体ではなく、敷地全体で通常の意味の居住性を確保していたわけだ。
今シーズン(5-11月)は、特別野外展示として草間彌生の《ナルシスの庭》が家の背後の池に、またカボチャの彫刻が家の前に設置されている。さらに9月には、草間の赤い水玉がガラスの家を覆うことになる、という。
草間の《ナルシスの庭》は1966年のベニス・ビエンナーレに自主参加(?)した作品。今回の設置では、それほど大きくない池に浮かんだ1300個のミラーボールが風に吹かれてフワフワと漂い、時にぶつかりあってカチカチと鳴る。スケール二分の一の子供用パビリオンに立って聴く音は、草間作品にふさわしく、なかなか幻想的だった。
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