桜井 武(熊本市現代美術館館長):創造的復興の場となることを目指して

2016年10月17日 10:00 カテゴリ:エッセイ

 

国家的保障制度の必要性を痛感――

 

震災から半年が経過し、この間、私たちは全国から、また海外からも心強い励ましをいただき、それが私たちの復興への力となってきた。

 

前回も触れたように、4月14日の前震以後閉館していた熊本市現代美術館は、5月11日にフリースペースが開館、翌週18日に被害を免れた小展示室において特別バージョンのエッシャー展で、再開にこぎつけた。街なかにある美術館として、再開それ自体が明るいニュースとなった。この無料公開の特別展は、1カ月弱という限られた期間ではあったが、総入場者数が1万人を超えた。美術館が人々の癒しや寛ぎの場であることを、スタッフ全員が痛感した。

 

震災後、再開にこぎつけた「エッシャー展」

 

そして館内全体の安全点検を済ませたこの夏、双方向的で参加型ハイテク・アートである「かえってきた!魔法の美術館」 展を予定通り開催。これは子供も大人も十分に楽しめる光と音の展覧会で、夏休み期間中は連日千人を超える観客でにぎわった。

 

震災から復興への厳しい状況のなかで、とりわけ重要であったのは、緊急に行われなくてはならない工事と、それを可能にする財源の問題であった。業者との日頃築かれた信頼のおける関係性と、私たちの財団の基金を取り崩すことにより、復旧工事と再開を速やかに行うことができた。より深刻な災害を蒙った場合、その財源はどうなるか、これはどの美術館にもあり得るこれからの課題であろう。さらに、美術館所蔵の作品が予想を超えた災害に遭遇した場合、市や県を超えて、国家的な保証制度の確立が必要と思われた。

 

多くの家族連れでにぎわった「かえってきた!魔法の美術館 展」(~9月19日)

 

この夏から秋にかけて、当館では佐渡裕が率いる「スーパーキッズ・オーケストラ」のコンサートを始めとして、「演劇まつり」、「ジャズフェスティバル」等、県と市の密度の高い共催による実に多様な事業が実現した。震災により公共のホールや公民館などが被害を受け、熊本では多くのアーティストが表現する場を失っている。私たちの美術館は、彼等の発表の場ともなり、美術の領域を超えた創造の拠点となることを目指していきたい。

(熊本市現代美術館 館長)

 

【関連リンク】熊本市現代美術館

 

【関連ページ】桜井 武:「平成28年 熊本地震」被災状況等について

 


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