素材の表情
初めて青磁作品を制作した際、モチーフに選んだのは蟹だった。「陶器のぬめっとした感じは、甲殻類の成形に向いているのでは」。素材から導き出した題材だった。
陶芸一家に生まれ、幼い頃から粘土遊びのような感覚で土を触っていた。祖父は海洋生物などの陶で知られる文化功労者の今井政之。父は今井眞正。家の手伝いといえば、窯の薪割りだった。
当時、祖父たちの仕事については「渋すぎてよく分からなかった」と笑う。陶よりも漆や切子といった分かり易く綺麗なものに惹かれ、高校時代に浦口雅行の青磁に魅せられる。その後大学1年の進級展で、初めて蟹の青磁作品を制作した。
今も何より大事にしているのは、素材の表情。目の前の素材と向き合い、焼き方も考慮しつつ、ふさわしいモチーフを選びだす。細部にこだわった海洋生物や花の作品は「スーパーリアリズム」と評されることも多いが、単に正確さを目指しているわけではない。「見せたいのはモチーフの本質。それは祖父の制作との共通点かもしれません」。
最近出合った素材は、光をよく通す信楽透土。透光性を活かし、聖護院かぶらなど地元・京都の野菜を成形した。光を跳ね返すのではなく「吸ってくれる」白さは、植物ならではのものだ。
今年9月には、あべのハルカス近鉄本店にて祖父、父、叔父の裕之との4人展を開催した。3代現役の家は少ない中、完眞の「創作陶芸」は次代の新たな風となる。
今度の日本橋三越での個展テーマは、海。巨大なシーラカンスの作品をはじめ、蟹や魚、イカに海亀が空間を遊ぶ。実はそれらの中には、石垣島などで自ら捕ったものも多くあるのだという。
今後は醜さやグロテスクな要素もすべて含めた「美しさ」を表現したいと語る。モチーフらしさに踏み込んで、血液まで感じさせるような陶器を。今日も素材と優しくにらめっこする。
(取材:岩本知弓)
※今井の「今」は異体字、中は「ラ」でなく「テ」
今井 完眞 (Sadamasa Imai)
1989年、陶芸家今井眞正の長男として京都に生まれる。祖父は陶の世界における象嵌技法の第一人者・今井政之。高校時代は彫刻を専攻。昨年東京藝術大学大学院美術研究科陶芸専攻を修了。京都と広島を拠点とし、本格的に作家活動を開始した。来春、銀座・黒田陶苑では3度目となる個展を開催予定。
今井完眞 陶展 —海—
【会期】 2016年11月9日(水)~15日(火)
【会場】 日本橋三越本店本館6階 アートスクエア(東京都中央区日本橋室町1-4-1)
【TEL】 03-3241-3311
【開場】 10:30~19:30
【関連リンク】 Mizenka Gallery: 今井 完眞