福武財団のアレンジで、シンガポール・ビエンナーレを見に行った。2006年に私が一回目をキュレーションしてから、だいぶ年月がたって、今回は6回目になる。前回の5回目は東南アジア地域の若いキュレーター27人によるビエンナーレということで、多数の新しい作家が紹介されたと同時に、明快なひとつのメッセージを発信できないとか、地方色が強すぎるなど、かなりの批判にさらされた。
しかし今回は、シンガポール美術館のキュレーターを中心に、10人に絞り込まれたチームで、地図=マッピング(An Atlas of Mirrors)をテーマにかなり歴史、政治的な内容をはらんだ作品が並んだ。ところで株式会社ベネッセホールディングスは長年、ヴェニスのビエンナーレにベネッセ賞を出してきたが、今年から、シンガポール・ビエンナーレに出品している作家に賞を出すことになった。これは遅ればせながら、もっとアジアに焦点を合わせようという意図である。
私が印象深かったのは、アジアの作家も、大きなインスタレーションや、テクノロジーを駆使した作品を作るようになったということである。特に最後まで受賞候補に残った、タイのパナパン(PANNAPHAN YODMANEE) 中国のチュウジェ(QIU ZHIJIE)などは、その空間的スケールと歴史的なヴィジョンで、なかなかの風格を示した。またフィリピンのマーサ・アテンザ(MARTHA ATIENZA)は、海と航海をテーマに、モニターやプロジェクションを組みあわせ、詩的なビジョンを開示した。
さて、私は日本国内で、茨城県北芸術祭を終えたばかりなのだが、次にはホノルル・ビエンナーレに手をつけた。というより、昨年から懸案だったのだが、進めていなかったので、急ぎ、態勢を整えて臨むことになった。ホノルル・ビエンナーレの創設者は三人の若いホノルル出身の人たちである。会場は市内5カ所くらいを想定し、アジア太平洋地域の現代美術に焦点を絞った。太平洋地域は私も詳しくないが、キュレーターにはナヒラカ・メイソン(Ngahiraka Mason)というニュージーランドのオークランド市立美術館のキュレーターだった女性を入れて、アドヴァイザーも数人たてて情報を収集し、会議を重ねて作家を選択して現在およそ35人が参加する予定である。特に核となる作家たちは、現代美術の多様な表現、テクノロジー、写真の技術を駆使して相当に見応えのある作品を発表している。こうしたわれわれが通常視野に入れていなかった地域の重要な作家を、ビエンナーレという国際的舞台に上げていくのも、キュレーションの醍醐味であるだろう。
注目したいのは、ニュージーランドのリサ・ライハナ(Lisa Reihana)、フィオナ・パディントン(Fiona Pardington)、サモアのユキ・キハラ(Yuki kihara)、グレッグ・セム(Greg Semu)、タヒチのアレクサンダー・リー(Alexander Lee)、キャシー・ジェトニル・キジナー(Kathy Jetnil Kijiner)などである。3月8日から公開されるので、是非、アートの芽吹き始めたハワイに来ていただきたい。(森美術館館長)