東アジアの国際情勢が緊迫の度を深めてきた。北朝鮮によるミサイル発射に示される核兵器開発の問題に対してトランプ政権は強硬姿勢を崩さず単独でも武力介入をいとわぬ構えを見せている。シリアでは爆撃も行った。米中首脳会談でどのような判断が下されたのか分からないが、日本にとっては韓国の大統領選挙といい、東アジアの国際環境は困難な事態になってきた。日本・中国・韓国それに米ロが絡む国際政治・国際関係は予断を許さない状況にある。
折角東アジアに「文化の時代」が訪れてきたというのに、東アジアの人々がようやく文化に文化交流に関心を高めてきて政府も文化振興と交流に取り組む姿勢を示してきたのに、それが頓挫するような悲惨な事態を招かぬように、各国首脳の英知英断を祈るばかりだ。と言って消極的に祈るだけでは何も進まない。こういう時こそ文化の振興と交流を出来る限り盛んにして平和の価値を知らしめることが求められるといえば甘いといわれるのだろうか。文化の重要性を信じ、その活発で創造的な活動こそ人間と社会の実りある平和な明日を築く基礎となると思うものとしては、まず文化交流の実践あるのみ、である。
この7月から10月にかけて六本木の二つの美術館、森美術館と国立新美術館とが共同で大規模な東南アジアの現代アート展を開催する。このことについてはすでに触れたことがあると思うが、「サンシャワー:東南アジアの現代美術展」と題して東南アジア諸国連合(ASEAN)10ヵ国のアーティストの作品展が開催されるが、このような展覧会は史上初めてであり画期的な展覧会に他ならず、日本と東南アジア諸国との強い結びつきを政治や経済などと並んで文化でもはっきりと世界に知らせることとなる。それに今年はASEAN結成50周年になる記念すべき年である。東南アジア諸国は互いに政治形態も違い経済状況や社会の在り方や宗教や文化や言語も異にし、この地域は世界でも有数の多言語多民族地域でもあり、多種多様性が特徴でもあるのだが、その違いを超えて国際連合体を形成し、今や50周年を迎えた。第二次世界大戦後の日本にとってアジアといえば東南アジアであった。そうした東南アジア諸国が、今やすばらしいアーティストたちを生み出すようになった。
その成果が世界で初めて東京で、六本木で二つの美術館による初めての共催企画展として同時に開催される。作品の選定の最終段階にある現在、内容はまだ詳らかには出来ないのが残念であるが、今年の夏は六本木は東南アジアアートで彩られることを宣言し、ご期待を乞う。アートにアジア・アジアにアートをと、緊張する政治状況にある国々も含めて改めてそう言いたい。(国立新美術館館長)