昨年春にダウンタウンの新館に移ったホイットニーが満を持して3年ぶりにバイエニアルを開催している(6月11日まで)。
キュレーターには、同館からクリストファー・リュー、外部からミア・ロックスの超若手の2人を起用。ともにアジア系とあって、新鮮な視点が期待されていた。
参加作家数は63。建築自体にオープンスペースが多いだけに、全体にインスタレーション作品が充実している。他の作家の作品を取り込んだラファ・エズパルザ(1階)や、グループ「オキュパイ・ミュージアムズ」(5階)などの力作が並ぶほか、外光のあふれた展示室ならではのアサド・ラザの《根の列、母国語》もある(6階)。
これは、箱状植木鉢に移植された26本の樹木からなるインスタレーションだが、会期中樹木の維持をする世話係数人も作品のうち。アクション・フィギュアや日記など、それぞれに思い入れのある品々を根元にあしらい、観客に話しかけ対話をする。水と肥料を十分に与えられた樹木は3月初旬には枝だけだったが、花蘇芳などは早々に開花し、また今後は若葉が芽吹いて本来無機質な美術館空間に自然の生命力が注入されることになる。
マンハッタンのスカイラインを背景にしたテラスに彫刻を設置して気をはいているのがベテランのラリー・ベル。60年代に西海岸派ミニマリズムの代表格だったが、3月初旬にあったアーモリー・ショーや全米美術商協会のフェアでも目立っていた。特殊加工されたガラスの箱は、日光を浴びて赤い影を床に落とし複雑な空間を作り出す。
またラウール・デ・ニーヴェスは、カラフルなビーズやプラスチック、布地などで構成したライブ感覚の人物彫刻で知られているが、天井まで届く大きな窓にステンドグラス風に透過光の壁画をデザインして一体感のある空間を演出している。
ホイットニー・バイエニアルの通例として「物議をかもす」作品がある。男性がもう一人の男性を路上で野球のバットでめった叩きにするビデオをヴァーチャル・リアリティのヘッドセットを使って観客に体験させるジョーダン・ウルフソンの《真の暴力》あたりが候補かと思っていたら、思いがけずデーナ・シュルツの絵画作品《開棺》から論争が起こった。
これは米市民権運動の起爆剤の一つとなった黒人少年のリンチ殺人事件にもとづく絵画で、開幕直後の週末に作品の前で黒人男性作家が「黒人の死が見世物に」と抗議して以来、ソーシャル・メディアにくわえて新聞雑誌などでも賛否両論が巻き上がった。白人作家による同作品を取り下げろ、という声に対してキュレーターのリューとロックスは作品を擁護。
この論争は、アイデンティティーや人種問題などに閉鎖的な傾向が支配する現在のアメリカの政治状況を如実に反映しているが、私自身は報道内覧で同作品には気がつかず、あらためて見ても作品としての質に疑問が先ずおよぶ。ただ、キューバ系アメリカ人の作家で論客として知られるココ・フスコがより開かれた対話の必要性を掲げて作品を擁護したのが印象的だった(goo.gl/1nk63O)。
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