シカゴ大学とポンジャ現懇で共催した国際シンポジウム「1945年以降のアジア美術における書と画」(goo.gl/jKzryd)のためにシカゴに出張した。アート・インスティチュートの「中平卓馬のサーキュレーション」再現展やプロボーク展も興味深かったが、現代美術館の「マース・カニンガム:共有の時間」展は圧巻だった(すべて4/30まで)。
同展は、カニンガムのアーカイブを所蔵するミネアポリスのウォーカー・アート・センターとの同時共同開催。ウォーカーの構成がアーカイブ資料を縦横に駆使しているのに対して(7/30まで)、シカゴ現代美術館の構成は、カニンガムと現代アーティストのコラボを軸として、ダンスの回顧展ながら視覚性の高いダイナミックな展示となっていた。
ダンスと一口に言っても、カニンガムは前衛の旗手。現代音楽のジョン・ケージと親しく、ロバート・ラウシェンバーグやジャスパー・ジョーンズが歴代の美術監督を務めるなど、現代美術との共振度は高かった。
カニンガムは音楽とダンスと美術という、それぞれの原理が独自でありつつも相互依存すると認識し、それを繋ぐのが「時間の共有」だ、と考えて越境的な実験を続けていた。展覧会は、この思想を体現する試みだ。
記録写真を壁紙化し、自家製フォントを活かした入口から中に入ると最初に出会うのが、フランク・ステラによる1967年作品《スクランブル》の舞台装置。虹色の帯をピラミッド状に積み上げたすっきりとした構成は、ある意味でステラ的ではないものの、その翌年から画家が着手した《分度器》シリーズの直截な幾何学へと繋がっていく。
この他にも、ブルース・ナウマン、ロバート・モリス、ナムジュン・パイク、エルネスト・ネト、川久保玲など同時代作家との協働は多彩で、展示技術の高さで定評のあるシカゴ現代美術館の力量が存分に生かされている。
たとえば、アンディ・ウォーホルとの協働は、66年にカニンガムがキャステリ画廊での通称「銀の枕」のインスタレーションを見て、新作《雨林》の舞台装置にしたい、と申し出て、68年に実現した。ステージの床に手グスで固定された枕状風船が、踊るダンサーと偶然に接触して飛び上がり、あるいは生命体のように震えて絶妙な効果を生んだという。展示では、舞台の記録写真を背景に観客が銀の風船と遊ぶことのできるインタラクティブな環境を演出している。
何より壮大だったのはチャールズ・アトラスのビデオ・インスタレーションだ。アトラスは74年からカニンガムの制作助手を務め、20点以上のビデオを協働していたが、2009年に90歳で他界したダンサーへのオマージュとして《MC^9》、つまりマース・カニンガムの九乗を12年に制作。ハレーション効果、ドローイングとのミックスや背景の操作などを多用したビデオを素材に構成されたインスタレーションは、大小異なるサイズのプロジェクションやモニターを使い、リズム感あふれるスリリングな体感型の環境を実現していた。
すべて筆者撮影
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