7年ほど前、フランスで出逢った日本の女性とその日に一度だけアルルの小さなレストランでディナーを共にした。お互い一人旅、こういう時しかディナーをする機会もなかった。仕事道具を宿に置きレストランに向かう。その途中、建物の間から夕暮れで真っ赤に染まった空が飛びこんできた。「ちょっと描かせて!」と僕はすかさず彼女のエビアンを分けてもらい水彩でスケッチをとった。大きなカルトンはホテルに置いてきたけれど、いつ何と出逢うかわからないから、小さなスケッチブックと水彩道具は肌身離さずに持っていた。
誰かに見せるためや褒められたいわけでもない。ただ、〝描きたい〟その衝動とその瞬間を逃したくないだけなのだ。今でもその時留めた拙いスケッチを見返すと、アルルの匂いや風の音、思い出もくっついてくる。もうかえらない感動のマーキングみたいなものかもしれない。
それは外国にかぎらない。ここ数年行き始めたクラシックコンサートでは、青空や緑があるわけではないけれど、快い音やリズムに高揚してその情景をスケッチにとる僕がいる。小さな紙にメモ描き程度に…、盛り上がる音の時は力強く鉛筆を動かし、繊細な音の時には緊張しながらゆっくり鉛筆を動かすのだ。それは虫の声もピアノの音色も全身で感じて風景を描くように、体をゆらしながら。そんな道具から生まれた宝物は、想いの強い順にタブローになっていく。そして、これからも素敵な場面と共に立ち会うであろうその相棒(道具)には、未だに愛称が付いていない。
山内大介 (やまうち・だいすけ)
洋画家、白日会会員
1981年 三重県生まれ
2007年 名古屋芸術大学大学院修了、個展(ギャラリー笹川、08年)
2010年 第86回白日会展アートもりもと賞
2011年 個展(高輪画廊、13年)
2013年 第48回昭和会展東京海上日動賞、美術新人賞デビュー2013奨励賞、第89回白日会展オンワードギャラリー賞
2014年 個展(あべのハルカス近鉄本店、16年)
2015年 個展(渋谷・東急本店、16年、17年)
2016年 個展(松坂屋名古屋店)、改組 新 第3回日展 初出品初入選
2017年 個展(そごう横浜店)、改組 新 第4回日展 特選
今後の主な予定は、個展「―NICE 2017― 山内大介 油絵展」(12月7日~13日、渋谷・東急本店)、「英英紅綠 第42回 白日会会員選抜展」(12月20日~26日、日本橋三越本店)など。
【関連リンク】 山内大介 ウェブサイト
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