9月27日、日産アートアワードの審査を行い、グランプリの発表を行った。このアワードは日産のカルロス・ゴーン氏のイニシアチブで始まったものだが、今回で3回目となる。基本的なシステムは、推薦委員が推薦した数名の作家の資料を選考委員が選考し、そこで残った5人程度の作家が数ヶ月後に自作の展示を行い、それを見て、審査員が賞の最終選考を行うというものだ。特徴は推薦委員に多数の日本の現代美術専門家が関わっていること、審査委員には海外のトップクラスのキュレーターが入っていることだろう。
1回目の大賞受賞者は宮永愛子、2回目の受賞者は毛利悠子であった。最初の2回が彫刻・インスタレーションの作品だったが、今回の受賞は映像のインスタレーションの藤井光である。彼の作品は、天上からつり下げられたステーの下に取り付けられたモニターと壁の映像からなるもので、多数の演者が登場し、日本のアイデンティティーとは何かを問いかける。虚と実の物語が混じり合うきわめて演劇的な作品である。
この賞の特徴は、まさに日本の中堅の作家について知るよい機会になることだ。また海外の審査員がじっくり作品を見てくれることもあって、審査員を通して国際的なネットワークにつながる点もメリットである。実際これまでの例を見ると、大賞受賞者以外もその後の国際的活躍が目立つ。日本の現代美術の海外進出が弱いという人もいるが、このような方法で海外につないでいく方法もあるという例だろう。
なお寺田倉庫で開催され、同日の9月27日に授賞式が行われたAsian Art Awardも若手育成支援を掲げている。こうした賞が沢山あれば作家にはありがたいだろうが、それぞれ明確な特徴を持つことも重要になるだろう。この賞では大賞に山城知佳子、特別賞に谷口暁彦が選出された。
さて一方で六本木では、恒例のアートナイトが開催(9月30日~10月1日)された。今年で8回目である。今年のメインプログラムアーティストは蜷川実花で、テーマは「未来ノマツリ」。今回は江戸と未来の日本を混交したような奇妙な絢爛豪華さを舞台のようなインスタレーションで作り出した。観客はブースのようになったインスタレーションの内部に入って自撮りし、それをSNSで拡散するという趣向である。開幕の式典には、TOKYO道中という異形の人々のパレードが客席の中から登場、大いに場を盛り上げた。
このイベントは、オリンピックに向けてもっと拡大して、東京における芸術祭として大きく育てていくべきではないかと考える。そしてパリのニュイ・ブランシュのように、東京中で行われてもいいはずだ。町の中に展開する芸術祭、これほどオリンピック向きのイベントはないだろう。しかし、そのためには、もっと街の中の作品設置がやりやすくなるように、アート特区のような方法で、東京を本当の意味で文化都市にしなければならないのではないかと思う。
それから2週間遅れて六本木ヒルズでは、5回目のイノベーティブ・シティー・フォーラム(10月12日~14日)を開催したが、そこでは参加者に「東京をもっと良くするには何が必要か」というアンケート調査をしたところ、「文化」と応えた人が最多だった。やはり東京にはもっと文化をということだろう。美術館の数でさえ、専門に特化した多様な美術館の存在などを考えればとうていパリやロンドンには及ばない。日本の政府も東京都ももっと文化に予算を割くべきだろう。(森美術館館長)
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