ヨコトリにも参加!シンガポールの版画工房「STPI」ディレクターに訊く

2017年12月22日 18:08 カテゴリ:最新のニュース

 

「ヨコハマトリエンナーレ2017」STPIセクション Photo by: TANAKA Yuichiro

「ヨコハマトリエンナーレ2017」STPIセクション Photo by: TANAKA Yuichiro

 

シンガポールには版画と紙の工房がある。その名も「STPI(シンガポール・タイラー・プリント・インスティテュート)」。2002年の設立以降、大竹伸朗、金氏徹平、束芋ら日本人作家を含む各国のアーティストを招き、工房所属の職人とともにプリント作品を制作してきた。11月5日に閉幕した「ヨコハマトリエンナーレ2017」では、横浜美術館の序盤の展示室でそのプロジェクトが紹介された。ヨコトリ参加の経緯とは。そしてSTPIの実践とは。ディレクターのEmi Euにメールインタビューした。

 

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STPIディレクターのEmi Eu

STPIディレクターのEmi Eu

──まず、ヨコハマトリエンナーレ参加の経緯を教えてください。またヨコハマトリエンナーレ全体において、STPIの展示はどのような役割を果たしたと考えますか?

 

私たちSTPIのプロジェクト「Exquisite Trust (Blindly Collective Collaborations)」が、今回のヨコハマトリエンナーレのテーマに合っているということで、コ・ディレクターの三木あき子氏に招かれました。「島と星座とガラパゴス」と題する今回のトリエンナーレでは、既存の枠組みや概念を超越するような目覚ましい作品やアーティスト、そして私たちのようなプロジェクトが求められていました。

 

私たちのセクションでは、カールステン・へラー、トビアス・レーベルガー、アンリ・サラ、そしてリクリット・ティラヴァーニャという4人のアーティストのSTPI Creative Workshopでのコラボレーションを紹介しました。何がすごいかというと、彼らはプライベートでも古くからの友人で、「Exquisite Corpse(優美な屍骸)※」の手法を用いた制作が出来たこと。この意味で、今回のプロジェクトは「コラボレーション」の面白さや精神を見事にとらえ、私たちがSTPIで行っているアーティストとの仕事の可能性を広げていると言えます。私たちの展示は、このような取組みを知る機会を提供したのではないかと思います。

 

※シュルレアリスムにおける共同制作の手法。互いに他の人間がどのようなものを制作しているかを知らないまま自分のパートだけを制作することで、制作者の誰も予想できなかった意外な作品が生まれることになる。

 

 

──今回のヨコハマトリエンナーレの感想を教えてください。

 

今回のヨコハマトリエンナーレはちょうどよい規模のものだったと思います。多くの国際展は鑑賞により時間を要しますが、ヨコハマトリエンナーレではそれぞれの展示を楽しむことができました。素晴らしかったです。

 

 

──STPIは版画工房と製紙工場、そしてギャラリーが合わさった世界規模の工房ですが、その設立の経緯を教えてください。また、STPI設立後のシンガポールのアートシーンの変化はどのように感じますか?

 

シンガポールの現代アートを活性化させるプラットフォームとして、個人やアーティスト、ギャラリー、コレクター、公共機関、政府機関(MCCY, STB, NAC, EDB)の協力により、2002年にSTPIは設立されました。人々が年中開催される各地のアートイベントを楽しめているのは、アートシーンを育てるという面でシンガポールが成長した証です。そのなかで、STPIは版画やコンテンポラリー・アート・プラクティス等の評価を高める重要な役割を担ってきました。加えて、STPIはアーティストによる実践を進め、新たな制作方法を提供してきました。それは彼らの一連の作品に、新たな流れを作り出しています。

 

 

──STPIは大竹伸朗や金氏徹平など日本の作家も紹介していますが、彼らとの取り組みの中で印象的だったことを教えてください。今後コラボレーションしてみたい日本人アーティストは誰ですか?

 

2007年に「BMW Young Asian Artist Series」展で志賀理江子を紹介し、10年に束芋、14年に金氏徹平、16年に大竹伸朗とコラボレーションしてきました。彼らとの共同作業のなかで、作品をつくる際に言語は障害にならないのだと気づきました。これは日本人以外の英語を母国語としないアーティストに関しても言えることです。アートは共通言語なのです。

 

村上隆と仕事がしてみたいですね。彼のビジョンや信念に強く惹かれています。STPIを2度訪ねてくれていますが、彼が私たちの仕事に大きな変革をもたらし、まだ知らないステージへと押し上げてくれると信じています。

 

ヨコハマトリエンナーレ展示風景。横浜美術館コレクションのマン・レイなどとともに、STPIの作品が展示された Photo by: KATO Ken

ヨコハマトリエンナーレ展示風景。横浜美術館コレクションのマン・レイなどとともに、STPIの作品が展示された Photo by: KATO Ken

 

STPIのギャラリーでは、アーティスト・イン・レジデンスの成果をもとに展覧会を開催している。2016年に開かれたのは大竹伸朗展。大竹が初めて本格的に版画に取り組む機会となった

STPIのギャラリーでは、アーティスト・イン・レジデンスの成果をもとに展覧会を開催している。2016年に開かれたのは大竹伸朗展。大竹が初めて本格的に版画に取り組む機会となった

 

2014年には金氏徹平展が開かれ、ベニヤ板など様々な素材を使用した作品が並んだ

2014年には金氏徹平展が開かれ、ベニヤ板など様々な素材を使用した作品が並んだ

 

STPIウェブサイトより。11月に滞在制作したのは、森美術館での個展も記憶に新しいディン・Q・レ

STPIウェブサイトより。11月に滞在制作したのは、森美術館での個展も記憶に新しいディン・Q・レ

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Emi Eu

2001年よりSTPIに参加。09年にディレクターに就任してからは、アジアや西洋の著名なアーティストとの優れたコラボレーションを紹介し、STPIを世界的な組織へと成長させた。彼女のもと、STPIは13年のアートバーゼルで、シンガポールのギャラリーでは初となる出展を果たす。現在Art Galleries Association Singapore(AGAS)代表。美術教育へも熱心で、シンガポールマネージメント大学では美術史や批評を教えている。

 

【関連リンク】STPI ウェブサイト

 

 


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