僕の通っていた小学校の隣にあった公民館には、縄文土器が展示してあった。どれも壊れていたり、破片を組み合わせていたり、資料としてはたいしたものではなかったと思うが、かたちを見るというよりは壊れた表面や模様が妙に気になったものだ。小さい頃から粘土遊びが好きだっただけの自分が、まさか彫刻家の道に進むとは夢にも思っていなかったが、彫刻の素材に土を選んだのも、そんな幼少期のなにげない記憶が関係しているようにも思う。
土には他の素材、木や石や金属とは違う特別な性質がある。彫刻の素材の中で唯一、手だけでかたちを自由につくることができ、そのかたちは一度焼成されてしまえば何万年も風化しないというのも、なんとも不思議だ。
数年ほど前に、縄文土器を拾う事ができる場所があると聞いて土器拾いに出かけた。どれも細かく、縄文の文様もはっきりとは残っていなかったが、間違いなく縄文土器と思われるものをいくつか拾うことができた。縄文時代の人が土を手でかたちつくり、焼いたものがそれそのもので、手にとりじっくり眺めていると縄文人の手と自分の手が間接的に触れ合っているような不思議な感覚を憶えた。
昔から木や石には念が宿るとされているが、土はどうなのだろう?作り手の願いや想いは手を通じて土へとしみ込み、それを焼き固める事で、そこに宿った精神は永遠に風化することはないのではないか、なんてことをぼんやりと考える。
増井 岳人 (ますい・たけと)
新制作協会彫刻部会員、東京藝術大学彫刻科非常勤講師
1979年神奈川県鎌倉市生まれ。2001年に東京藝術大学彫刻科を卒業。同大学院を修了した2003年の第67回新制作展で初入選し、以降毎年出品(’06 ’07 ’09 新作家賞受賞)。2006年に東京藝術大学博士後期課程退学、09年まで同大学彫刻科教育研究助手。2010年新制作協会会員に推挙。2015年より同大学彫刻科非常勤講師を務めている。
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