空っぽになる風景
鑑賞者の目線を様々な方向に彷徨わせ、見ていて「空っぽになれる」作品をつくりたい――。その想いは広重の浮世絵や、東洋的な概念の「空(くう)」とも共鳴する。4月の個展には「うつらうつら」と名付けた。
実家は山梨の果樹園。小学校の頃通い始めた近所の絵画教室が、今のルーツとなった。対象の美しさをそのまま捉えるデッサンが得意で、藝大の日本画専攻に進学したが、何を描くべきか分からず「絶望の4年間」を過ごす。卒業後は鎌倉の日本画塾へ。講師の紹介で千住博と知り合い、不定期でNYを訪れ制作助手を務めた。作風は異なるが、作家としての一つの大きな指標ができた。
絶望の日々を越えて、「個性を出さない」ことも一つの手段だと気づく。大学入学前のデッサンで培った「眼の使い方」こそが、自分の原点。日本画を、素材の良さを引き出す日本料理のような存在として捉え、写真を制作に用いはじめた。
アトリエから見える富士山よりも、道路や住宅地など「人の整備した風景」を多く撮りためている。何気ない日常の風景こそがリアルだと思うからだ。写真をトレースし、アクリルと日本画材を併用して仕上げる。景色の表面を写し取ったような作品は、版画にも似た手触りが魅力的だ。構図の面では浮世絵や范寛、福田平八郎、ウォーホルらの作品に感化を受けながら、まさに「うつらうつら」と鑑賞できる作品を目指す。最近は溶剤を用いて、桜の写真をそのまま転写する作品にも挑戦している。
メッセージ性をなくし「従来の日本画からも現代アートからも距離をとった」その作品は、現代人の記憶の残像を確かになぞり、独自の存在感を放つ。個展を年2回、25歳の頃から続けており、75歳で迎える100回展が一つの目標だ。心地よい虚無をつくり出すため、誠実に歩みを進める。
(取材:岩本知弓)
阪本 トクロウ(Sakamoto Tokuro)
1975年山梨県塩山市(現・甲州市)生まれ、在住。現在、武蔵野美術大学非常勤講師。1999年東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業。早見芸術学園日本画塾卒業後、2004年まで日本とNYを行き来し千住博の制作助手を務め、羽田空港の天井画などにも携わった。美術館や百貨店、画廊など、国内外で精力的に発表。4月14日(土)~29日(日・祝)、ギャラリー桜の木 銀座本店で開催される新作個展「うつらうつら」では、桜やメリーゴーランド、昨年ドイツにドクメンタを見に行った際に出会った田園風景などの作品を出品する。特に田園風景は「山梨ではあまり目にすることがなかった」ため、初めての試みとなった。
【展覧会】阪本トクロウ展「うつらうつら」
【会期】2018年4月14日(土)~29日(日・祝)
【会場】ギャラリー桜の木 銀座本店(東京都中央区銀座5―3―12 壹番館ビルディング3階)
【TEL】03―3573―3313
【休廊】火曜
【開廊】11:00~19:00
【料金】無料
【関連リンク】阪本トクロウ ホームページ