地震から2年―新たな創造の場へ
「熊本地震の体験や記憶は風化していませんか?」地震から2年を経て、このような質問を受けることがある。それに対する答えは明快で、被災した熊本の人々にとってあの体験は身体に刻み込まれており、その記憶は薄れることはない。そしてあの稀有の地震は、私たちの美術館の存在や立地条件、そして市民との関係性とは何か、あらためて考えさせた。
地震後、美術館が位置している繁華街が暗く沈み込んでいるのを見て、また本震後10日を経て増え始めた市民からの問い合わせと開館要請の電話により、私たちは速やかに開館する必要性を痛感していた。そして余震におびえながらの復旧から、それに続く様々な事業の展開の2年間の記録が、この『地震のあとで 美術館を美術館として開ける』の刊行であった。
これは単なるデータの集積ではなく、熊本市長との真摯なインタビューをはじめ、市民や専門家、そして美術館スタッフの生の声を収録したものである。掲載された地震前と後の写真は、国内外で活躍する川内倫子、石川直樹、宮井正樹、そして美術館スタッフによるもの。ブックカバーの裏側に印刷された細かな無数の数字の列は、地震後に空調が故障した時の温湿度の変化を示すもので、当時の美術館スタッフの切羽詰まった精神状況を象徴するものである。
地震は県内の劇場やホールに壊滅的被害を与え、舞台芸術のアーティストたちが表現の場を失っていた。そして1カ月程で開館することができた私たち美術館は、彼等を受け入れ、美術のみならず多様で高度な表現の場ともなっていた。勿論この間、美術館では様々な地震と深く繋がる企画展が開催され、館は単にこれらの公演の受け皿となっただけでなく、新たな創造の場ともなっていた。地震の年2016年度は、このようにして例年の倍の入場者数を記録することになった。
この小冊子は、困難ではあったが努めて前向きな復興に向けての美術館の活動記録といえる。
(熊本市現代美術館 館長)
熊本市現代美術館 熊本地震記録集 地震のあとで After the Earthquake ―美術館を、美術館としてあける―
B5版/80ページ/オールカラー
2,000部(全国の美術館や熊本県下の図書館、博物館、教育機関等に配布)
問合せは熊本市現代美術館まで:TEL096-278-7500
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