富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] :作家の成長―村上隆と荒川医

2018年07月25日 10:00 カテゴリ:エッセイ

 

 

初期から作品を見ている作家が何人かいる。

 

たとえば、村上隆。1996年のフィーチャー画廊展は、NYでの初個展のはずだが、銀地に花の小品を見た。こんな日本画風でこの先どうするのだろう、と思ったことを強烈に覚えている。それがジャパン・ソサエティでの「リトル・ボーイ」展を経て、最近ではボストン美術館で辻惟雄と協働して「奇想の系譜」展を企画。その勢いが今春のペロタン画廊全館を使った大個展に流れ込んでいる。

 

 

欧米の美術市場を明確に意識した村上の戦略を、私は肯定的に評価してきたが、今回は作品がぐんと前進した、と思う。まず、一部屋を使い製作工程の出力ドローイングをずらりと見せることにより、グローバル市場にも理解できる論理で日本画由来の工芸性とその価値をアピールした。また意匠の点ではフランシス・ベーコンに奇想のイメージを見出して本歌取りをほどこし、日本趣味の金銀の色調のバージョンと、西洋趣味の重厚感ある黒赤の背景のバージョンを並行させて見事なオマージュのシリーズに作り上げている。

 

この展開、熟成とでも形容してみようか。

 

もう一人、荒川医を考えてみたい。こちらは彼がまだ学生の時期からの付き合いで、2003年にインデペンデント・スタディーで作家研究における調査の方法を伝授した。

 

以来、NYを拠点に活動。パフォーマンスが専門だが、歴史意識が高く、戦前のMAVO、戦後の具体や河原温など、日本の作家をテーマにした作品も多い。ミレニアル世代に大人気で、国際的にプロジェクトを展開する。

 

初期の作品はカオス系で突拍子もないことが次々と起こり、私こと不肖の師匠にとっては面白いのに難解だった。だが、2013年の《パリスと魔法使い》を初めとして口パクのミュージカルを手がけるようになって、ストーリー性が増し、私にも楽しめるようになった(goo.gl/XWK2iB参照)。

 

今年は、デュッセルドルフ・クンストフェアラインで初の美術館個展を開催(8/5まで)。関連プログラムで私も講演に招待された。

 

 

展覧会の題にもなっている新作「パフォーマンス・ピープル」は、美術史上の名作15点を選び、それぞれを人格に見立てる。つまりパフォーマンスがピープル(人)なのだ。

 

第一回目の上演を誕生日として占星術師に各人格の運勢や性格を入念に占ってもらい、ホロスコープ・チャートを作成。占星術師も作家で、荒川と密接に協働した、という。

 

それをLED絵画に仕立て、市場に流通するモノを作るようになったのは一つの進歩(?)だろう。他にチャート資料や占いの文言も展示、各人格との架空インタビューをスピーカーで流してマルチな作品となっている。

 

錚々たる面々の15人衆には、ミュージカル《エンジェルズ・イン・アメリカ》やヴィト・アコンチの《シード・ベッド》などに加えてオノ・ヨーコの《カット・ピース》、松澤宥の《人類消滅の幟》も入っていた。後者を読んでみたが、意外に当たっている部分もあり、弟子の慧眼にニヤリとしてしまった。

 

 

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