いのちの螺旋
一般に、いわゆる“日本美術”は現代に浸透しているとは言い難い。それが10代20代の若者からすれば猶のことだ。だからこそ日本画を、古典を描きたい――現在25歳、東京藝術大学大学院に通う日本画家・古家野雄紀は静かにそう語る。
勉強より絵が得意だった。そんな漠然とした理由から進んだ高校の美術科で、日本画と出逢った。岩絵具や膠、日本画の素材の美しさが、その肌にしっくり馴染んだという。以降、村上隆の工房でも経験を積み、日本画を基盤にしたミクストメディアの作品制作を続ける。
ただ古典に傾倒するわけではない。花鳥や富士など日本美術の象徴的なモチーフ、琳派や若冲へのオマージュも垣間見せながら、今日の技法と感性をもって全く新しい日本画を花開かせる。
今年「第7回Artist Group―風―大作公募展」にも入選した代表作「螺旋群像図」は、赤・青・緑・金、曼荼羅に倣った色彩構成と古来馴染みある群像図を主題に、極彩色の螺旋を描き出す。「螺旋は胎児の生まれ方にも通じる、生命の根源を成す形だと思っています。」一貫して制作の主軸に置く“生命”。大きないのちの螺旋を、緻密に彩られた小さないのちの群れが紡いでいく。
百貨店を中心とした個展やグループ展、書籍への図版提供等、その精力的な活動にも目を見張る。2017年から豊島屋の銘菓・鳩サブレーともコラボレーション。その年の干支をあしらう限定の「干支缶」は、多幸感溢れるデザインが好評を博し後の活動に繋がる好機となった。来年は亥年、その発売を心待ちにする人は多いだろう。
古家野が描く巧緻を極めたポップな画面には、間近に見つめたくなる魅力がある。古典様式の美と現代的な“カワイイ”が織り成すその作品は、日本画の世界へと一歩近づくきっかけを与えてくれるはずだ。
(取材:秋山悠香)
古家野 雄紀 (Yuuki Koyano)
1993年愛知県生まれ、埼玉県さいたま市在住。現在東京藝術大学大学院修士課程デザイン科描画・装飾研修室2年。14年「第6回トリエンナーレ豊橋」入選・審査員推奨、18年「第7回ArtsitGroup―風―大作公募展」入選。12月5日(水)~12月11日(火)さいか屋藤沢店での特集個展、12月12日(水)~12月17日(月)阪急うめだ本店でのグループ展に参加予定。15年「アートオリンピア2015I台北國際藝術博覽會2018」に参加、同会場にて19年1月に海外では初の個展を開催予定。
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