笑み溢れる“刻”
アトリエにて
ベレー帽と、胸に躍る〝シドロモドロ〟の文字――昨秋、日本橋三越本店の厳粛な空間でユーモラスな作品に劣らず異彩を放っていたのが、南青山に「シドロモドロお彫刻教室」を開く彫刻家・田島享央己だった。
田島は仏師の流れを汲む彫刻一家の五代目。初めて鑿を握ったのは0歳の時、そう言って過言ではない環境で、好奇心旺盛に育った。「プロレスラーやエッセイスト、ロックンローラーになりたかった。」と笑いながら話す田島だが、幼稚園の文集に記した将来の夢はその時既に彫刻家だった。
個性もさまざまな“お彫刻”たち。
つぶらな瞳にはブラックオニキスが用いられる。
何にも似ないその作風には、田島の人間性が凝縮されている。特に好きだという運慶はじめ数多の作家から受けた影響、演芸や郷土玩具に及ぶ嗜好、祖父から三代にわたり重用する名工・千代鶴是秀の鑿にも窺える道具へのこだわり……何より〝売れる〟ことに真正面から向き合う姿勢、それらすべてが、唯一無二の造形を創り出す。
クラウドファンディングで支援金を募り原宿から移転した「シドロモドロお彫刻教室」は現在50名近い門下生を持ち、入門を待つ長蛇の列は日に日に長くなる。門下生に田島について聞くと、「あんな恰好で三越にいるような、そのままの人。」そんな声に、教室は和やかな笑いに包まれた。ふれる人を自然と笑顔にするのは、決してその作品だけではない。
(取材:秋山悠香)
(左)「ハシビロコウとタコのピエタ」2018年 (右)「イカピエタ」2018年
いずれも2018年日本橋三越本店での個展「田島享央己木彫展―花も嵐もお彫刻―」に出品。同展では会期中に出品作品が完売した。
えも言われぬ可愛さを呈する作品は、女性を中心に大人気。
制作時には、常に“お客様目線”を忘れない。
(左)アトリエ、「シドロモドロ工作所」内。中央に見えるのは、新制作協会会員推挙に至った2017年新制作展出品の「Almost blue」。
(右)制作において強いこだわりを持つのが、その道具。千代鶴是秀のほかにも初代小信や左小信、清忠など名工の業が制作を支える。
「シドロモドロお彫刻教室」の様子。入門者に配られるロゴマーク入りのエプロンを着け、黙々と制作に励む門下生の皆さん。教室の移転・拡大のためのクラウドファンディングでは目標の2倍、500万円を優に越える支援金が集まった。
田島 享央己 (Takaoki Tajima)
1973年千葉県生まれ、2000年愛知県立芸術大学美術学部彫刻科卒業。現在新制作協会会員、南青山にて「シドロモドロお彫刻教室」を主宰する。99年国際瀧冨士美術賞受賞、09年北の動物大賞展大賞受賞、14年第78回・16年第80回記念新制作展新作家賞受賞。2月12日河出書房新社より自身初となる著書『シドロモドロ工作所のはじめてのお彫刻教室』を発売、出版にあわせて2月21日~3月22日代官山蔦屋書店にて個展「田島享央己木彫展~彼は何故これを彫ったのか?~」開催予定。
【関連リンク】シドロモドロ工作所