[画材考] 版画家:田中里奈「制作へと向かうスイッチ」

2019年05月15日 18:00 カテゴリ:コラム

 

私の道具

私の道具

 

私は日頃から必要最低限の出費しかしない。しかし、ケチだからではない。画材に費用をかけたいからだ。しかもその時が一番幸せな時で、これらを使って作品を制作するんだと思うとワクワクしてくる。

 

木版画の大作用の和紙は、本番用は一枚和紙を使うので、かなりの値段だ。そのため摺る度にとてつない緊張感である。版画は、紙を持ち上げてみるまで分からないので、バレンで摺り込み和紙をあげる瞬間はドキドキである。

 

絵具を買う際も一心不乱に欲しい色をカゴに入れていくとあっという間にカゴが一杯になってしまう。流石に全部は買えないので吟味しながら、「これは次の機会に!」と棚に戻していく。こんな事を毎回繰り返しながら、画材屋に行くとあっという間に時間が経ってしまう。しかし帰りには満足感と幸福感だけが残る。そして同時に次の制作の計画も自然と出来てくる。

 

なかなか絵では食べていけないので、別に仕事をしているが、気が付くと全く絵の事を考えていない時がある。頭が制作に向かっていないのだ。そんな時に私は画材屋に出掛ける。そうするとまた、絵の事に頭が向き始めるのだ。

 

私にとって画材屋は、画材を買いに行く場所だけでなく、頭を制作に向かわせてくれる大切な場所だ。大変な時もあるが、好きな事をさせてもらえる今の環境、応援して下さる人々に感謝の気持ちを忘れず、続ける、という事の大切さを日々感じながら制作に向かう今日この頃だ。

 

《Meal(食卓)》改組 新 第4回日展(2017)特選受賞

《Meal(食卓)》改組 新 第4回日展(2017)特選受賞

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田中 里奈 (たなか・りな)田中里奈3
1981年神奈川県生まれ、日展準会員、東光会常任審査員。05年日展初入選。10年東光展会員賞。14年・17年日展特選。4月26日~5月10日東京都美術館にて開催される85回記念東光展、4月27日~5月8日上野の森美術館にて開催される上野の森美術館大賞展に作品展示。20年8月には日本橋三越本店での個展を予定。

 

 


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