4月27日に成都で開館した新しい写真美術館の開館式に出席した。
成都に行くのは初めてだったが、まずその大きさに衝撃を受けた。聞くところによると、成都の人口は現在約2000万人、東京の倍である。
さて開館した成都当代影像館(Chengdu Contemporary ImageMuseum)は私立の美術館である。コレクションは、全体で700点余あるが、そのうち中国人と外人作家の割合は半々である。ディレクターはパリのヨーロッパ写真美術館館長、ジャン・リュック・モンテロッソである。
開幕の展覧会はベルナール・フォコン展、セバスチャン・サルガド展、アンリ・カルチエ・ブレッソン展、ゴールデン・パンダ賞展、その他7つの展覧会400点の展示からなっていた。これらはほとんど所蔵品からの出展である。さらに美術館内にはモンテロッソが集めた写真関係出版物2万冊の図書館があり、今後の教育、研究活動に備えている。私は、ゴールデン・パンダ賞の審査員を務めたが、現在の中国の、アートとの境界の消えつつある写真表現の現状が見えて大変興味深かった。
成都から帰ると、8日はヴェネチア・ビエンナーレの開幕に向かった。今年のディレクターはアメリカ人でロンドンのヘイワードギャラリーの館長ラルフ・ルゴフで、テーマは「May You Live in Interesting Times」。この「interesting times」は数奇な時代、つまり不確実で危機的で混迷する時代を呼び覚ますものとして使われてきたという。
日本館はキュレーター服部浩之の企画案により、下道基行をはじめ、安野太郎(作曲家)、石倉敏明(人類学者、秋田公立美術大学准教授)、能作文徳(建築家、東京電機大学准教授)が参加。テーマは「Cosmo Eggs―宇宙の卵」。津波石のイメージを中心に据え、インターアクティブな音も組み合わせて総合的な空間インスタレーションを構成している。
何人かの知り合いの外国人キュレーターにあったら、「日本館いいね」と言われた。すれ違いで理由を聞けなかったのが残念だ。
ここではヴェネチア・ビエンナーレの展覧会レビューをすることは出来ない。ただディレクターのルゴフが事前に来日したということもあって、3人の日本人が出品している。片山真理、池田亮司、さらにアピチャッポン・ウィーラセタクンと組んで、森美術館のMAMプロジェクトに出品した久門剛史である。
世界は今、グローバル化反対のムードが強いようだが、ヴェネチアを見ると抗いようもなくアフリカ、アジア、南アメリカのアートが増加し、アートはグローバル化へ向かっているように思う。そして欧米が標準だった美の基準も今や複雑・多様になってきている。アートはグローバル化の方向でいいのではなかろうか。
ヴェネチアでは、あいかわらず幾つかの美術館が質の高い展覧会をやっていたが、プラダ財団のヤニス・クネリス(1936~2017)展は印象に残った。なぜなら私が1980年代にICA名古屋というオルタナティブ・スペースを運営し始めたときに、最初の展覧会をクネリスで開始したからだ。それはこのアルテポーヴェラ最大の作家が、ヨーロッパのアートの次の中心になるのではないかと思ったからである。彼はその時に夫人共々長期に来日し、ほとんどの作品は名古屋で制作した。今回のプラダの展示には、その一部が紹介されている。私には極めて感慨深いものだった。(森美術館館長)