”そこに在るかたち”
「いつも“見えない世界”への疑問や好奇心が根源にあります。」
妖精の物語が紡がれてきた地で、石は HiddenWorld “見えない世界”への入口だと聞いた。ポーラ美術振興財団の助成を受けアイスランドでの研修を終えた青木美歌は、現在日本橋髙島屋にて帰国後初となる個展「前触れの石」を開催中だ。
青木がガラスに注ぐその視線は、制作モチーフにも通底する。2年前の個展「あなたに続く森」では植物のライフサイクルをモチーフに、目に映らない生命の有りようを表現した。無機物ながら有機的な造形美を湛える繊細なガラス作品、それを彩る光と影、生死をめぐる命の環の輝きは鑑賞者の心を深く捉え、青木の飛躍に大きな一翼を担った。
その後、約1年半の時を過ごしたアイスランドの地。氷河と火山に覆われ変容する大地、オーロラたなびく空…地球そのものと言える景観や現象は、住まう星、或いは宇宙との関係を感じさせた。人為の及ばぬ自然の中、日本では当たり前に抱いたミクロな世界への興味は自ずとマクロな世界へ向かい、見つめる先、琴線に触れるものも変わった。
その変化は作品へ還元され、今展ではエネルギーを内奥に秘めた量的な作品が目をひく。変えようという意識はなかった。常にその瞬間、その場所で青木が享受した感動に呼応し、作品や空間はかたちを成していく。
石膏や土、今後はガラス以外の素材を取り入れた展開も視野に入れる。目に見えない、しかし確かに存在する記憶や時間の蓄積、命の連なり。青木の手が、感性が創り出すかたちもまた、“見えない世界”への入口となって、私たちをその内へ誘っていく。
(取材:秋山悠香)
青木 美歌 (Mika Aoki)
1981年東京都生まれ、北海道育ち。2006年武蔵野美術大学卒業後、文化庁新進芸術家海外研修制度にてイギリスへ留学、Royal College of Art修士課程修了。平成29年度ポーラ美術振興財団在外研修員としてアイスランドにて研修。08年第11回岡本太郎現代美術展入選、11年SICFグランプリ(青山スパイラル)。17年銀座・ポーラミュージアムアネックス「あなたに続く森」はじめ個展・グループ展多数。
8月14日(水)~9月2日(月)日本橋髙島屋S.C.本館6階美術画廊Xにて個展「前触れの石」開催中。8月31日(土)~9月3日(火)世界遺産 元離宮二条城でのグループ展、ICOM京都大会開催記念「時を超える:美の基準」にも出品予定。
【関連リンク】青木美歌