10月21日、ニューヨーク近代美術館(MoMA)が新装オープンする。
展示床面積が以前より三分の一「拡張」され、展観作品数も大幅増加。収蔵品展示は従来と同じく年代順に5階から始まり、6階、3階に特別展を配置。新しいのは1階が無料で見れることだ。注目されるのは展示内容の「拡張」。近代美術の老舗が21世紀の美術館になるべく、モダン・プラスを目指す。
まず部門別の展観を廃して、絵画彫刻から写真や映画まで取り混ぜ、それぞれの展示室に時代やトピックを設定していく。MoMA のモダニズム史観―キュビスム、ダダ、超現実主義やロシア前衛、バウハウスを経て抽象表現主義、ポップ、ミニマルにつながっていく大きな枠組み―は堅持しつつ、さまざまに視覚を拡張する試みが見出せる。
たとえば、定番ゴッホの《星月夜》の展示された部屋の中央には、同時代アメリカの奇異な陶芸家ジョージ・オーの器が並んでいる。
しかも次の部屋は同時代の「初期の写真と映画」の紹介。1905年の地下鉄の映像と同時期のステレオスコープ写真を並べる。
ビデオだけでなく、こうした記録画像や抽象映画なども壁に投射されて、展示に活気が倍化されている。
もう一つの拡張は、女性作家と非西洋作家の圧倒的な増加だ。グローバルな動向ではあるものの、MoMA 流こだわりも見えてくる。
やはり定番のピカソの《アヴィニョンの娘たち》。アフリカ彫刻を借用したともいえるキュビスムの部屋に、女性のアフリカン・アメリカン作家フェイス・リンゴールドが人種暴動をテーマにした67年の《アメリカ人シリーズ#20》が並び話題となっている。リンゴールドは MoMA で展観されていたピカソの《ゲルニカ》からヒントを得てモチーフの一部を描いているので「繋がり」もある。
ひっそりと「響きあい」を主張するのはロスコーの50年作品《No.10》とムンバイの画家バスデオ・ガイトンデが62年に制作した《絵画4》だ。インドの伝統絵画と戦前モダニズムを融合させたガイトンデの作品は、静謐な瞑想性がロスコーと呼応する。ガイトンデは後にNYに来てロスコーに会い、太平洋を越えて二人の作家がともに禅思想に影響されていたことを発見した、という。
こうした「対話」は随所に見出されるが、現代自動車傘下のヒュンダイ・カード社の支援で、マルチメディアのインスタレーションやパフォーマンスの現場性を演出するのも期待される方向。アトリウムには韓国の女性作家・楊海固(Haegue Yang)がスケール大きく構想した《ハンドルズ》、また新設の通称「スタジオ」にはデービッド・テューダーがコンポーザー・インサイド・エレクトロニクスと協働した《熱帯雨林》が観客の興味を集めている。文化資本主義の好例だろう。
最後に、デザインや写真を除くと日本の存在が希薄な感は否めないが、6カ月ごとに収蔵品展示を変える、とのことで、次のサイクルに期待したい。
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